幼き花の誉れ 誉れの花の章
□序章 炎上汚染都市 冬木
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またバイタルチェックが始まった。子どもで尚且つ膨大な魔力を有している、というのは近年まれにみるケースらしく、成長期ということもあってか身体等の急な変化も珍しくはないそうだ。屋敷にいた頃も何度も何度も専門の医者に同じことを言い聞かせられたことを思い出しながら無機質な天井を見つめた。
腕に何かの薬を入れられた、恐らく麻酔の一種だろう。徐々に瞼が重くなっていくのが分かる。
遠くで誰かが話している。何を話しているのだろう。
‥‥だが、何故、彼らはあんなにあわただしい表情をしている?
少しの変化に気づいたミシェだったが意識が朦朧とし始める。彼女が意識を手放す直前に聞いたのは特務機関には相応しくないけたたましいサイレンの音だった。
夢を見た。自分のものではない、全く知らない者の夢を見た。
黒髪の青年が泣き崩れている。大切な人の名前を叫びながら、涙を流している光景だった。
声が枯れようとも、青年は叫び続けた。まるで泣きじゃくる子どもを見ているようだ。
青年の姿を見たミシェは胸が締め付けられた。青年はこちらには気づいていないようだったが、何故か放っておけなかった。
「どこか痛みますか‥?」
「苦しいですか‥?」
今まで人とまともなコミュニケーションをとる機会があまりなかったミシェはこの青年にどう接すればいいのか全く分からなかった。それでも、放っておけない。
すると突然義理の母が自分の子どもに接している光景がふと頭に浮かんだ。そのあたたかい優しさは一度も自分に向いたことはなかったけれど、それでも十分だった。
優しく、青年を抱きしめた。母親のように包むことはできなかったが、これでも十分だろう。そして母親はいつもこういうのだ。
「泣かないで」
やっと青年がこちらを見た。
やっと存在に気付いてもらえたような気がしてなんだかとても嬉しかった。その嬉しさを抱いたまま、少女は静かに眠った。
「あ、れ」
気付くと、すでにバイタルチェックが終了していたようだ。なんだか短かったようで、長いような曖昧な時間だった。
なんだか夢を見ていた記憶がある。必死に思い出そうとするが、どういった内容だったかまでは思い出せなかった。