遥か彼方のイーリアスを探して


□Act:7 戦いの火蓋は切られた
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話が一区切りついたところで、カルデアの通信が聞こえた。ロマニではなく、ダ・ヴィンチがホログラム越しに表示される。

「やあ、十五世紀のフランスの旅は満喫しているかな?」
「満喫、と言われたら‥微妙な所よね」
「そうだね、今の所観光なんてしてないし‥」
「いや、多分そうじゃないでしょ」

 若干呆れ気味に立香にツッコミを入れながら、彼女の話を聞く。
 自分達はマスターとしての日はかなり浅い。つゆりは自らのサーヴァントであるアキレウスが召喚された際に聖杯から得た知識で多少のことは教えてもらったものの、立香はまだ右も左も分からない、と言った所だった。
 彼女からのレクチャーが終わり、召喚サークルを設立する。これでやっと一息入れることが出来る、と思えば隣で立香が安堵の息を漏らしているのが聞こえた。それはつゆりにも言えたことであり、胸を撫で下ろす。

 改めて自己紹介をすることにした。理由は言わずもがな、名前を名乗ったはいいものの、まだしっかりとお互いのことは分かり切っていない状況だったからだ。状況の整理がてら、互いがどんなサーヴァントなのか理解しておいた方が連携も取りやすいことだろう、というマシュの考えだ。

 まず、つゆりと似た銀髪と硝子細工の瞳を持つ少女がマリー・アントワネット、通称マリー、マリア。クラスはライダーではあるが、同じクラスのアキレウスとはまた違ったサーヴァントだった。
 次に、いかにも指揮者らしいいで立ちをしている男がヴォルフガング・アマデウス・モーツァルト。通称アマデウス。クラスはキャスターであるが、自分が英雄であるという実感が全くない様子だった。
 最後に、アキレウスがつゆりに召喚される前の聖杯戦争で敵対していたというジャンヌ・ダルク。お互い敵同士だったということもあり、そこまで深い親交はないようだが、現在では特にそう言ったギスギスとした雰囲気ではない。二人がそこまで執念深い人間ではなかったのが幸いだ。

 マリーがジャンヌを「生前から会いたかった人物」だと語っていたのをつゆりは思い出す。救国の聖女として名高いジャンヌとフランス史で最も有名だといっても過言ではないマリー。どちらも最期は国民たちの前で処刑される、という悲しいものだったことをつゆりや立香は知っていた。

「やっぱりサーヴァントってすごいなぁ。私には到底真似できないや」

 それにはつゆりも同意見だった。真っ当な人間の生き方は出来るだろうが、自分の意志を貫くことが出来る、本当の意味で大きな一歩を踏み出せる程の勇気を持った人間はほんの一握りだ、とつゆりは考える。

―――‥‥‥私に、勇気なんてないけれど。

 所詮、自分は運がよかっただけなのだと思う。何度も思う。此処まで生きてこられたのは他でもない、アキレウスのおかげだ。彼というサーヴァントがいなければ、自分は何も出来やしないのだ、とつゆりは心のどこかで感じていた。

 きっと、櫻葉つゆりという人間は―――この中で一番の臆病者だ。

 一見、冷静で取り繕っているように見えるが、肝心の中身は誰もが前を向いている最中、一人だけ後ろを振り返って怯えるような。そんな、臆病者だ。
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