四天宝寺
□メガネ。
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「ただいま〜」
大学を卒業してから、名無しさんと同棲しはじめて1年が経った。
帰ってくる度に、駆け足の音が聞こえてきて、可愛え可愛え俺の彼女が玄関までやってくる。
『お帰り〜!』
そう言って、俺をぎゅっと抱きしめる彼女は満面の笑みで、それを見たら俺も自然と顔が緩んでしまう。
ふわっとシャンプーの香りがする名無しさんの頭をよしよしと撫でてから、ぎゅうっと返すと俺の腕の中からふふんっていう幸せそうな声が聴こえる。
『ご飯できてるから食べよう!』
「おお、ありがとうな。お腹ペコペコやわ」
お互いに就職して、俺のほうが少し帰りが遅いだけやのに、夕食まで用意してくれて、ほんまに感謝感謝と毎日思う。
ええお嫁さんになるに違いないわ。
1年経っても最初の頃となんら変わりなくラブラブな生活が続いている。
大体のカップルが同棲すると半年をすぎた辺りで、飽きてくるっちゅう話を聞いた事があんねんけど、うちはなかった。
ない。あるはずない。時々言い合いしたり、言いたい事はお互いに言えてるからなんやろうかな〜。
他のカップルがどうかなんて、まあどうでもええねんけど。
俺にとっては名無しさんが初めての彼女で、これから先も名無しさんしかおらん。
ほら、見てみい。
自分の作ったご飯食べてこんなに美味しそうに食べる人おる??
なんでそんなに美味しそうに食べるん?って聞いた事あんねんけど、『蔵と一緒にいたら何でも美味しいし幸せなの!』とか可愛え事言うんやで!?
ありえへんやろ、神様が俺に与えて下さったプレゼントとしか思えへん。
『蔵?美味しくなかった?』
「え、あ、いやいや!美味しいで。
食べながらいろいろ考えてしもた。堪忍な」
『ならいいけど…仕事で何かあったの?』
「いや!全然!…ほんまに大丈夫やから」
『ならいいけど…。』
アカン。名無しさんに夢中過ぎて、箸が止まってたなんや、ちょっと恥ずかしいやん。
しかもそれで、そんな心配してくれるんやから、ほんま名無しさんは天使やな……いや、女神や!!俺の女神やな!
ご飯を食べ終えると、俺はお風呂に入る。
そういや、今じゃ当たり前になってて、全然考えとらんかったけど…よく考えたら同じシャンプー使ってんねや。
せやのに、何で名無しさんの方がええ匂いするなって思うんやろ。
不思議やな…。
お風呂から上がって、居間に行くと名無しさんがパソコンに向かっている後ろ姿が見えた。
まだ持ち帰りの仕事があったんやろうか…。
ほんまは名無しさんも忙しいやろうに、申し訳ない。
それでも俺のためやって、用意してくれるご飯も、綺麗にしてくれる部屋も、ほんまに有り難い。
名無しさんを絶対離せる訳あらへん。いや、離さへん。
名無しさんを後ろからぎゅっと包み込む。
『蔵?お風呂大丈夫だった?』
「おん、丁度ええ。」
『どうしたの?甘えたさん』
「せやって、名無しさんの愛を噛み締めてる」
『ふふっなにそれ〜』
「名無しさんは絶対ええお嫁さっ…んに、な、る、……………。」
『蔵?…』
笑いながら振り返った名無しさんは、いつもと違うて…。
俺は全ての思考回路が一瞬にして止まった。
心配そうに俺を覗き込む名無しさんやけど……
「なっ!めめめめめがね!!!?」
『あ、これ?』
「おおおお俺のプレゼントしたやつやんな!?」
『そうだよ〜!パソコン向う時の愛用品!』
「え!?いつも使うてたん?」
『うん、会社でね。あ、そっか。家で使うの初めてかもね。いつも仕事持ち帰らないし、今日はちょっといろいろ詰まっちゃってて仕方なくね…』
「聞いてへん!!!いやいや!!見てへん!!!」
『え…?まあ言ってないからね…いや、どれに対してのコメント?』
「メガネや!!メガネ!!!なんなん!!めっちゃレアやん!!今日の名無しさん、めっちゃレアやん!!」
『いつも会社で使ってるってば…』
「……?ハッ。会社で!?いつも!?」
『うん』
「会社の奴らにそれ見せてるん!?!?ダメや!!!!!!!外せ!!会社で使うたらアカン!!!!!」
『な、なんでよっ』
「こんな可愛いレア名無しさんを会社のやつらに見せる訳にはアカン!!」
『なに言ってるの』
「いつも言うた!?もう時既に遅しやん!!アアアーありえへんっ!俺はこんな可愛過ぎる名無しさんを見せつけるためにメガネを買うたんやない!!え、いや、待て。俺より先に会社の奴らが先にこの姿をみたっちゅう話!?嘘やろ!?!?ちょ、待て待て!しかも、名無しさんのデスクの隣て謙也やろ!?!?うそやん!!待ってーな!アアアアア」
『く、蔵っ!!ちょっと…!!』
ありえへん………。
喜んだのも束の間や…。
何でこんな現実…嘘や……。
『もう!蔵がそんなに落ち込むなら、メガネやめる』
「あ、ああ!やめんで!!」
『変態!ばか!あほ!変態!』
「変態二回言うた!!」
―バタンッ
虚しく残った俺は立ち尽くした。
居間の隣の寝室へと早足で向かってしまった名無しさん。
俺……興奮しすぎや……。
―コンコン
とノックをすると、ドアの隙間から名無しさんが顔を見せる。
「堪忍な…。名無しさんが可愛過ぎてつい…」
『私がパソコン使いすぎて目悪くなって蔵の事見えなくなってもいいの?』
「だめや!!」
『じゃあ、蔵にもらったパソコン用メガネ使っていい?』
「つ、使うて…。」
『ありがとう。大切にしてるし、お気に入りなの。
でも、私も使ってるよ〜っていう報告なくてごめんね?』
「おん…。かわええから許す。」
『ありがとう。大好き!』
そう言って部屋から出てきて、俺をぎゅうってしてくれる。
また名無しさんのシャンプーの香りがして、逃がさへんって伝わるようにぎゅうっと返す。
謙也……。
お前は許さへんからな。
俺より先に名無しさんのメガネ姿みたやなんて、1000年早いねんて!
『謙也は悪くないでしょ』
「聞こえてた?」
『謙也じゃなくて、私を怒って』
「謙也を庇うん!?」
『そうじゃないけど……』
「お仕置きや〜っ!!」
『変態。』
それからはお楽しみましたっちゅうのは秘密やで。
2017/1/2(意味不。ごめんなさいwww)