四天宝寺

□年が明けて今
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年を越えて今、私は光の彼女となった。


先輩たちに「いつそういう事になったんやー!」「名無しさん〜〜〜っ」「アカン…新年早々アカン…」ってたくさん何かを言ってたけど、私と光って付き合っちゃダメだったの?なんなの??
って思ってたら光が


「名無しさんは気にせんで、阿呆でおればええよ」



『なっ!何それ〜〜!』



からかってきたから、なんかもうそっちの方に気を取られた。
阿呆阿呆って、ほんと光は私を阿呆扱いするんだから…。



深夜2時くらいになると、みんな近所なためそれぞれが家路につく。

私はというと、幼馴染である蔵の家で残って後片付けを手伝う。



「名無ちゃん、いつもごめんねぇ」


『全然!』



蔵のお母さんと一緒に紙皿や紙コップをゴミ袋に入れる。



「名無しさんはええ奥さんになるなぁ」


「俺の彼女勝手に褒めないでもらえます?」


「褒めるくらいええやろ!!」




蔵が私を褒めてくれるからふふんって嬉しくなったのも束の間、光がつっかかったかと思えば何故か謙也先輩が言い返す。

先に帰ってて良いって言ったのに、最後に残るのは結局いつもこのメンバー。

来年も今日みたいにみんなでいたいな…。
今年で先輩たちは卒業だと思うと、いつものこの光景も寂しく感じる。
あーダメダメ!お正月なんだし、あと数時間したらみんなで初詣行くんだから!
そうそう、切り替え切り替え。今は今を楽しもう。


片付けが終わると、蔵と友香里ちゃんが玄関先まで見送ってくれた。
方向が同じで、途中から謙也先輩と分かれる。
少し歩くとそこは私の家。



『送ってくれてありがとう』


「おん」


『じゃ、またあと、でッ!?』



マンションに入ろうとすると、何かに引っ張られた。
その何かに視線を向けてみると、光が私の服を掴んでいて




「まだ行かんで。」



『っ……う、うん?』





な、なにそれ!
伏せ目でそんな事言うのずるくない??
断れなくない??




「お願いあるんやけど」


『ん?』


「去年、着物着てたやん」


『うん?』


「……」


『?』


「…やっぱ、今年も着てくれへん」


『やっぱ??え、うん?』


「はあ…。」


『ため息??うん??』


「ほな」




え?


んん??なにこれ?どゆこと?
あ、え、そゆこと?



『私の晴れ着姿見たかったとかー?いでっ!』



えへえへって冗談でヘラヘラしてみせると、光に軽くでこぴんされた。




「阿呆。」


『何ででこぴんしたのー!?』


「…9時に迎えに行く。ほな。」


『ちょ、光!』




訳わかんない!!
でも、案外この訳わかんない感じに惹かれたんだと思う。
光のこともっと知りたいって、いつも頭いっぱいになって、隣にいれば何か知れるかなって思ってた。
思えば、こんな考えが光のことを好きになったきっかけなのかもしれない。
1年の頃を思い出すと、光ってあんなに身長高かったっけ…って、家路を歩く光の後ろ姿を見ながらそう思った。



.


.


.


朝になって、着物で家を出る。







『へ』





―パシャ。








エントランスに出るなり、カメラの機械音が聴こえて、その先にはスマホをこちらに向けた光が立っていた。



「阿呆面ゲット。」



『光〜〜!!今の消して〜!』



「一生残すわ孫に見せたろ」



『どんだけ先まで残す気!?』





阿呆面はほんとショック!
好きな人の携帯にはなるべく可愛い姿で残っておきたかった!
新年早々、初写真がまさかこんな形になるとは…。


なんて思いながらも、待ち合わせの神社へと向う。
人がたくさん並んでる中、一際目立つ集団が見える。
それはやっぱり、うちの部活の人たちで…。




「二年生組来たな。」


「全員揃ったから行こか」


「名無ちゃん着物や〜〜!!」


『そっか、金ちゃんは初めて見るね?』


「めっちゃ、かわえー!」


『ふふ、ありがとう』




そう言って金ちゃんに抱きつかれる。
ほんと金ちゃん可愛い。弟にしたい。
なんて淡い思いはすかさず消されてった。




「金ちゃん、名無しさんの着物に触ったら
部長が毒手やって言うてたで。」


『え、そうなの?』


「毒手!?!?嫌やーーーー!!」


「ほなら、部長にやめてってお願いしてき?」


「白石ぃいいいい〜〜」


『あ、行っちゃった…』





せっかくの可愛い弟が…。
隣の光に目を向けると、なんだか複雑な顔をしていた。



『なに?それ?どういう顔?』


「知らんでええ」


『え!教えてよ!』


「…」


『光〜』


「 」


『ひ、か、る』


「あーっ!人の気も知らんで!阿呆!
ほんまは名無しさんの着物姿見たいんやけど、あーいう事になるから、着やんでって言おう思ったのに自分の欲望に勝てへんくて、結局着物着てくれってお願いした俺が阿呆やっちゅう話や!!阿呆!」



『なっ…』



「行くで。」





そう言って耳まで真っ赤にさせながら、私の手を引く光がとても可愛かった。

また新しい一面を知れた。





『そんな阿呆阿呆言わなくて良くない?』



「阿呆」



『ちょっと!』



「好きや。阿呆。」



『……許す。』






そんな新年。

今年も、もっと光の事知れますように。











2017/01/01

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