四天宝寺
□年を越して今
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みんなが笑うこの空間。
一氏先輩、小春先輩が漫才をする。
それに爆笑する部長と謙也さん、名無しさん、金ちゃん。
笑いすぎて息ができなくなる金ちゃんの背中をさする千歳先輩。
それに同調して慌てる副部長。
みんなの様子を見守る銀さん。
その全体図を見る俺。
ほんまに先輩らのこのテンションについていけへん。
一歩引いて、見守ろうとすると、名無しさんや部長に引かれて無理やり輪の中に入れられる。
でも、ほんまはその優しさもこの空気感も嫌いやなくて…。
むしろ、いつの間にか俺にとって当たり前なってた。
居心地が良すぎて、あと数カ月でこれがなくなってしまうのかと思うと、切なかった。
そんなん思うなんや俺らしくないわ。
今日は大晦日。
部長の家でみんな集合して年を越す。
いつの間にか恒例行事になってたらしい。
『光、ぜんざいもらってこようか?』
「もう3杯も食べたからさすがに迷惑やろ…」
「財前のために用意したんやで?遠慮なんかせんでええのに」
「ほなもらいます」
『ふふっ素直でよろしい』
そう言ってまたぜんざいを持ってきてくれる名無しさんは、暖かい目で笑うてた。
いつもこの笑顔に助けられた。
1年で隣の席になってから、ずっと俺の隣におってくれた。
俺がこのテニス部に入ろう思たのも、名無しさんがマネージャーやってたのが決めてやなんて言うたら、先輩ら怒るんかな。
『光?』
「なん」
『今年もたくさん笑ったね。』
「そうやな」
『光。』
「なん」
『来年もまた宜しく』
「おん」
またそうやって穏やかな笑顔を見せるから。
俺は顔を隠すように手の甲で口を覆う。
なんでやって…絶対今顔赤なってるし!
ほんまに…反則やろ、その笑顔。
「年明けまであと15秒やでー!!」
金ちゃんのその声にカウントをし始める先輩ら。
『えっどうしたの?』
「「10」」
「何もないわ」
「「7」」
『顔赤いよ?』
「「4」」
そう言って心配そうに俺の額へと手を伸ばす名無しさん。
ああ…そうやってまた俺に触れるん。
やめてや…。
心拍数が上がっていくのを感じる。
それもこれも、全部あんたのせいや。
「「2」」
「阿呆」
「「1」」
『ひかっ……ん』
「「はっぴーにゅーいやーーーーーー」」
気付いた時には、俺へと伸びた名無しさんの手を引いて、優しげな瞳をする彼女にキスしてた。
『………???』
「名無しさん、明けましておめでとう」
『ひか、る…?』
「…好きや」
『っ…!』
目を見開く名無しさんは、フリーズしたかのように固まった。
ほんまおもろい。
先輩らは俺らの間で起きた事に全然気づいてへんようで、今もクラッカーを鳴らしたり、踊ったり、よう笑っとる。
案外気持ちを言ってしまえば、どうにでもなれって思えるもんなんやな。
未だに動かない名無しさんと目を合わせたままだったが、不意に口を開いた。
『たし、も……き。』
「聞こえへん」
『わっ私も好き!』
「誰が?」
『光が好きっ!!』
その名無しさんの声に、ようやく先輩らが気付いて、フリーズした。
謙也さんは口を開けてポケーとしとるし、部長は持っとった紙コップを落とした。
「名無しさんちゃん…?」
『ふぇ!?』
「今の告白なん…」
『へ』
どうしようとでも言いたげな慌てた様子の名無しさんを引き寄せる。
腰をもって、俺の隣にぴったりと合わせると、先輩らに向き直る。
「そういう事なんで、今日から付き合う事になりました。
よろしゅうお願いします。」
「「財前ーーーーーっ!!」」
先輩らが名無しさんの事好きやったんは知っとります。
でも一番近くにおったのは俺やし、近くにおってくれた名無しさんも大概やろ。
これからも名無しさんの隣は俺やって決まってんねん。
『ひ、光っ…』
「ようできました。」
『…っ。』
そうやって額にもう一度キスを落とすと、名無しさんは照れて笑った。
そんな年明け。
今年は名無しさんで埋め尽くされた年になりそうやな。
2016/12/31