四天宝寺

□ピアスと私と
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8月。真夏の真っ只中。
例の極秘プロジェクトから3ヶ月程が経った。
光くんはそのプロジェクトにより、テニス部に加わった訳だ。
新入部員は1年生だけでなく、2年生も何人かいて、今では大賑わいな部活となった。
正直ただでさえ、濃いメンバーだとは思ってたのにこんなに人数がいるとなるとマネージャー業も自然に増えていった。
でも、私にとってはそれにやり甲斐を感じていて、今までよりもテニス漬けの日々を送っていた。
頑張っているみんなの姿に元気づけられる。




「名無しさん先輩。」


『ん?なに?』



みんなの試合の様子を記録し、目を向けずそのまま声の主に返事をした。



「こっち見て。」


『…っ!』




そう言われて顔を上げると、ドアップの光くんの顔があった。
心臓が飛び出そうなくらいに吃驚して、咄嗟に後ずさる。



「っふ。おもろい。」


『か、からかわないでよ!』


「だって、最近あんまり一生懸命やから。」


『ん?』


「俺らのこと面倒見過ぎちゃう?
自分のこと、できてるんスか?」




珍しくあまりにも心配そうな顔するから。
思わず目を逸してしまった。
確かに自分に向ける時間は少なくなった。
家に帰れば宿題済ませて、さっさと寝支度して、明日の朝練と授業の用意。
学校に着くなり、休み時間には委員会の企画や仕事を一気にまとめる。

いわれてみれば、自分の時間なんてここ最近作っていなかった。



「頑張ってるんは嬉しいんやけど、
そろそろ身体壊しそうで恐いッスわー。
俺に夏風邪とかうつさへんで下さいね。」



ぽんぽんっと、私の頭を撫でる彼の手は嫌味を含めてもどこか優しくて。
出会った時には私とより低かった身長も、今では目線が同じように感じる。
男の子の成長ってこんなに早いんだ…。
なんて、ちょっと先輩というよりは叔母さんめいたことを思う。




「夏休みなんやし、たまには自分のために時間作ったらどうですか。」


『じゃあ、光くん一緒に付き合ってくれる?』


「え…?」




え?いやいやいや!!私何言ってるんだ!!
自分でも予想外の言葉に驚いて、口を抑える。
しまった…。口が滑った。
光くんのことだ、どうせ”面倒くさい”とか”何で俺が付き合わなアカンの”とか言うんだろう…
自分で自分の傷つく誘導尋問したみたいで、自己嫌悪。




「俺とデートしたいんすか」


『    』




何 も 言 え な い。
あーばか私。どうせまた罵倒されるんだ。
聞きたくない〜〜〜



『あ、そうだ部室に資料…』


「名無しさん先輩。」




この場を離れようとした私の腕をすかさず掴む光くん。
振り向くと、目が合う。




「ええっすよ。」


『………へ』


「デート。」





ええええええええ。
な、ななななに。なんで!?!?
あの光くんがなぜデートを快諾してくれているんだ。
てか、なぜそもそも話の流れで彼を誘ってしまったのかもよくわからないのだけど。





「あとで連絡しますわ」


『は、はい……。』






私はいつも彼の問いかけに従順に答えているきがする。
それは、彼がいつも私を理解していて、的確なことを問いてくるから。
私は反論する必要もなくて、的確過ぎて頷くしかない。

でも、それも嫌じゃなかった。



夏のテニスコートに爽やかな風が吹き抜けた気がした。










2016/12/13
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