四天宝寺
□Epilogue
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名無ちゃんと別れてから五年が経った。
高校を卒業し、東亰の大学へ進学した。
腐れ縁なんか神様の悪戯なんかようわからんけど、謙也とは高校も大学も一緒やった。
高校こそ同じクラスになったものの、大学では学部が違うために同じ授業になることはなかった。
中学を卒業してから名無ちゃんとは会うてへん。
謙也と険悪やった時もあったんやけど、ある日を境に、それもなくなった。
あれは中学の卒業式の日やった。
「…。なあ白石」
謙也が話しかけてきたんは、三ヶ月ぶりくらいやった。
「なん」
「お願いがあるんやけど。」
顔こそ真剣やった。なに言い出すんやろうと、変に構えた俺は謙也から目を離さなかった。
「第二ボタンくれへんか」
は?
耳を疑った。謙也が俺の第二ボタンを欲している?
構えてただけに、一気に力が抜けた。
真剣な顔で何言うとんのやろうか。
「なんの冗談や」
「…。お願いや!!!」
気色悪いわ言うても、何度も頭を下げる謙也に負けてしまった。
そないな必死になられると、こちらも受け答えるしかなかった。
ほんまやったら、名無ちゃんに言われたかってんけど。
なんで謙也やねん。ようわからんけど、他のやつにあげるよかええわ。
「お前の気持ちに気付へんくて堪忍な?」
「ちゃうわ!!阿呆!!気色悪いねん!!」
久しぶりの空気感やった。
”ごめん”その言葉がなくても、なんとなく仲直りした気がした。
それから高校が一緒や話して、またテニス部で一緒に闘志を燃やした。
それこそ三年間、恋やなんてちっともできんかったんやけど、謙也と名無ちゃんが付き合うてないこともなんとなく察した。
そういえば、どこの高校に行くんかも聞いてへんかったなあ…。
何度も連絡をしようとしたことがあった。
いつか勇気を出して電話したんやけど。
”おかけになった電話番号は―”名無ちゃんの声を聞く事はなかった。
「白石〜今日成人式やいうのに何ボーっとしてんねん」
「おん、謙也おったん」
「ずっとおったわ!!一緒に電車乗ったやん!!」
今日も元気な謙也にククと笑ろうた。
俺らは成人式へ向かっている最中で、電車の中は同じような人がぎょうさんおった。
今日のために大阪へ帰ってきた訳やけど…
正直少しだけ期待していた。振袖姿の名無ちゃんに会えるんやないか。
四天宝寺中のメンバーが多く集まる会場につくと、見知った顔が集まっていて、懐かしさを噛み締めた。
久しぶりやん、元気してたか
決まり文句が溢れた会場で、俺は必死で彼女を探した。
けど、人も人。多すぎて見当たらんかった。
「白石、ちょっとトイレ行ってくるわ」
「おん」
そう言って謙也がトイレへ向かった。
違う高校へ行ってしまった小春やユウジ、千歳やら小石川と会うて、話に花が咲いた。
ほんま、懐かしい。
心が満たされていったかと思うと、女の子を目にする度に名無ちゃんやないかと、顔を確かめてしまう俺がおった。
満たされきれんかった。
―パシャッ
不意にカメラの電子音が聞こえてきて、音の元を見てみれば携帯を構えた小春がおった。
「蔵リン…名無ちゃん探しとるん?」
「…ハハ。バレてしもた?」
「わかりやす過ぎやっちゅうねん!」
切なげに俺を軽くどつく小春に違和感を覚えた。っちゅうか、何で写真撮ったんや…。
小春にそう聞こうとしたら、トイレに行ってた謙也が戻ってきた。
「おかえり」
「お、おん」
どことなく落ち着かない謙也やった。
「どないしてん?」
「白石…さっき―「謙也あ〜っこれ旨いでぇ〜」」
何かを俺に話そうとした謙也やったけど、小春に腕を引かれて行ってしまった。
「浮気かーっ!!」
ユウジの声が聞こえると、小春と謙也の後を追いかけていった。
「久しぶりすぎてさぶいぼたつわ」
その光景に懐かしさで満たされ、千歳と小石川と笑ろうた。
2016/11/19