四天宝寺

□Epilogue
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『嫌いになったわけじゃないの』




別れを告げられた。
なんでなん?そう聞いても理由は決して言わへん彼女の目を見ていられなかった。

二週間前の喧嘩がこうなるとは思ってへんくて。
また”ごめん”って言い合って、笑うて仲直りできるんやとばっかり思ってた。

なんで、なんでこうなったんや。


ガキすぎた自分の言葉に今更後悔した。
謙也とあまりにも仲良うしとる名無ちゃんに”謙也と付き合うたらええ”と言ってしまった。

大切な二人を傷つけてしまった。
全国大会も終わり、高校受験へのイライラをそのまま当てて、ほんまにガキすぎや…。

名無ちゃんとはその日以来話さなかったんやけど、今のテストが終わったらちゃんと話そう。そう思ててん。

けど、遅すぎたんやな…。
その間にも名無ちゃんの気持ちが動く事を俺は何で考えられへんかったんや。

今でもこんなに好きやのに。


『じゃあ、ね…』



そう別れを告げた彼女は、俺に背を向けた。




”まって”
”俺のそばにおって”


引きとめようと手を伸ばした俺の左手がとまった。


俺は何もできひんかった。
ただただ、立ち尽くす事しかできなかったんや。



振り向き際、名無ちゃんの涙が見えた。

その涙の意味はなんなん。


俺への哀れみ?俺と別れた哀しみ?


これまで彼女の泣き顔を幾度となくみてきたが、こんなにも胸を締め付けるような刳られるような表情は初めてやった。


名無ちゃんは謙也の方へ向かっている気がした。


俺がそう言うたんや。
俺が名無ちゃんをつき放したんや。

阿呆…。



俺には名無ちゃんを引き止める資格なんかどこにも持ち合わせてへん。






俺から遠ざかっていく彼女の後ろ姿をただただ呆然と立ち尽くして見ていた。

目頭が熱なって、頬を伝う涙を拭う力さえも失った。



彼女と出会って、付き合うて、もうすぐで三年が経とうとしていた。
三年前にはこんな辛いクリスマスがくるなんや、一ミリも思ってなかった。


名無ちゃんと三年間同じクラスな上に、
部活でもマネージャーと部長っちゅうことで何かと一緒におる時間が多かった。

お互いの気持ちを知るまでにそこまで時間はかからなくて、全国大会まで一緒に頑張ってきた仲間であり、恋人…やった。



全国大会へ集中するために推薦じゃなく、一般で受験すると決めていた俺は、今になってその判断を後悔した。

面接の練習やなんて、いくらでもできたはずやのに、少しでもテニスから離れたらアカンっちゅう不安に負けてしまうなんや…

その結果、これなん。
受験と引換に大切な人を失った俺の心は空っぽやった。


家に帰るなり、勉強しかすることがないやなんて、なんて寂しいやつなんやろう。



机に向うなり、飾ってあるテニス部を引退したときの集合写真を眺めた。

俺の左隣で笑うてる名無ちゃん。俺の右隣には謙也。
もう二人とは話すことができないんやろうか。
明日から冬休みや言うて浮かれる姉と妹の声がリビングから聞こえた。


名無ちゃんは、今何してるんやろう。



彼女の事で頭いっぱいいっぱいな俺は、



「愛してたで…」




届きもしない言葉を口にして、余計傷ついた。
今も愛してる。好きで好きで仕方ないのに…。

溢れる涙を拭って、俺は教科書を開いた。



2016/11/19
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