四天宝寺
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それは突然やってきた。
「はい、それじゃみんな席につき〜」
立ち歩いていた何人かが自分の席へと戻っていった。
「今日は紹介せな人がおります。」
なんや朝からざわついとると思ったら、どうやら転校生がくるんか。この流れは。
俺は教室から見えるテニスコートを片目に、渋々黒板の方へと向き直した。
―ガラガラ。
「…。」
その音ともにやってきたのは、一人の女の子やった。
思わず息を飲んだ。
『はじめまして。名無しさん名無しさんです。
今日から卒業までの半年間、宜しくお願いします。』
今まで通り過ごして、今まで通りのメンバーで卒業するはずやった。
卒業まであと半年。俺という本の中に、一人の登場人物が現れた。
「ほな、名無しさんさんは白石くんのとなりな。」
不意に俺の名前がきこえてきて、名無しさんさんに手をあげる。軽く会釈され、俺も会釈で返す。
誰もいなかった俺の右隣の席に彼女がやってきた。
『ありがとう。』
そう一言だけ言うと、彼女は荷物を横にかけてふわりと座った。シャンプーのかおりがして、なんだかくすぐったかった。
なんやねん。
「休み明けでまだ気が入らんかもしれんけど、今日から引き締めていけよ〜」
夏休み明けでやる気のない教室に喝を入れようとも、先生がやる気ないんじゃ意味ないやん。
そう思いつつも、なかなか話が入ってこなかった。隣の名無しさんさんが気になって仕方がなかった。
一目惚れやった。
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