short 2


□奥手なあなたは
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霊幻は何かと理由をつけて私を居酒屋に呼び出す。呼び出すくせに、すぐに酔っぱらって、エクボとかいう厳つい男に電話をかける。


私と霊幻、駆けつけたエクボの3人で、霊幻のアパートまで彼を送り届ける。そして霊幻の言いつけで私を家まで送るエクボ。これがいつものパターン。


最初は正直気まずかったけど、エクボは見た目に反して意外とお茶目で話しやすく、紳士的だった。霊幻との関係ばかり聞いてくる事を除けば、3人で過ごす時間は、私にそれなりの幸福感をもたらした。


ある日のいつもの帰り道、それは突然崩れ去ったのだけど。


「名前、お前さん、霊幻のこと好きだろ。」

「…………。」


ニヤニヤと意地の悪い笑顔を見せた彼は、私に悪魔の囁きをひとつ寄越したんだ。




そして、今日。私はいつもの居酒屋に霊幻を呼び出した。エクボの言葉に背中を押されたのも事実だった。


「お〜、名前が呼び出してくるなんて珍しいな。ってか、もう飲んでたのかよ。」


よっこいせなんて親父臭い掛け声と共に隣に腰を下ろした霊幻を見ながら、何杯目かわからなくなったジョッキを傾けた。


「たまには、私から誘ってもいいかなって。」

「……お前、酒臭いっ!飲み過ぎなんじゃねぇの。大丈夫かぁ?」

「ん〜、酔ったかも。」

「いつもと逆だな。送るわ。ちょっと待ってろ。」


大きな手が私の髪を少し乱して、それから携帯を取り出した。繋がらねぇ、なんて呟いて少し困った顔をした彼は、無表情で私の手をとった。


「エクボに電話したんだけど、アイツ出ねぇわ。とりあえずお前んち送ってくから、立てるか?」


エクボ曰く、霊幻も私に気があるらしい。だから今度は二人で飲め、何ならお前さんが先に酔っちまえよ、アイツも男見せんだろ。なんて……嘘つくなよ、エクボに電話してたぞ!私と二人は嫌なのか……。


心の中で散々愚痴ってたら、会計を済ませた霊幻の肩に腕を回された。


「まだ寝るなよ〜。流石に女の家に上がり込むのはなぁ。」

「……やだ、家帰らない。」


鼻歌交じりに呟く霊幻に、失恋を察知した私は我が儘を言う。私は今酔ってるんだ、このまま少しくらい霊幻の事困らせても覚えてないで済まされる。


「…………?」


返事が無いことと、隣から伝わる体温が少し上がったことを不思議に思って、覗き込むように見つめる。


「バッカ、お前!男に何てこと言ってんだよ!」

「別に、霊幻にじゃなかったら言わないし。」


プイとそっぽを向かれて、イライラが募ってく。そっぽ向きたいのはこっちだし。暫くの沈黙の後、恐る恐る私を見た彼は、唇の下に指を当て、もごもごと口を動かした。


「……名前が嫌じゃないなら、俺んち寄ってく?あっ!変な意味じゃなくてだな!そう!俺、結局飯食ってねぇし!」

「ふっ!寄ってく。」


汗をいっぱいかいて、腕を振り回す霊幻からは、28歳の健全な男らしい下心が見え隠れして、女として見られていたことに安堵する。


ほんの少しの期待に高鳴る鼓動を抑え、たどり着いた見慣れたアパート。ベッドに腰掛ける私を横目に、途中寄ったコンビニで買った飲み物とつまみをテーブルに並べた霊幻は、相変わらずうるさかった。


「テレビ!見るよな?」

「どっちでもいいよ。」

「……あ!どうする?チューハイ?水?どっち飲む?」


あたふたと落ち着かない彼の背中にもたれ掛かって、泊まっていいか訊ねると、ごくりと響いた唾を飲む音。


「名前さん?意味わかって言ってる?」

「わかってる。」

「これで明日酔ってただけとか言わねぇ?」

「……酔ってない。」

「酔ってる人間ほど酔ってないって言うからな。」

「うっさい!据え膳食わぬはじゃないの?」


あーとかうーとか声にならない声を出しながら、ガシガシと頭をかきながらこっちを向いた霊幻の顔は真っ赤だった。


「……俺が今までどんだけ我慢してたと思ってんだよ。」

「は?」

「飲んだ帰りは二人きりにならないようにエクボ呼んだりしてたんだけど。」

「どうして。」

「……素面で告白できるわけねぇし、だからって告白もしてねぇのに、酒の勢いで家に連れ込むのもって……あぁ!カッコ悪ぃ。」


まだガシガシやってる霊幻に正面から抱きつく。ぴくっと身体を震わせた彼が、ゆっくり背中に手を添えてきた。


「……どうする?一緒にお風呂入る?」

「バッカ!我慢してんだからそういうこと言うなよ!」

「さっきコンビニで……。」

「あぁ!余計なこと言うなよ!てゆうか、見てたのかよ。……紳士のあれだよ、ほら。とにかく!」



口元を手で覆い、目を逸らした霊幻をじっと見上げた。ちゃんとしたときにしようぜ、なんてよく分からない事を言った彼は、斜め上に向かってぶつぶつ何か言っていた。





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