short 2


□憧れとか恋とか
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「先輩!」

「……名字、先輩やない。門倉立会人じゃろ。」

「いいじゃないですかぁ!私のこと拾ってくれたくせに。」

「今からでも捨てに行けるけど。」


うんざりした様子であしらうわりにはこの場を立ち去ろうとしない先輩は何だかんだで私に甘い。


何も知らずにこの組織に入った私が、初めての現場で見た光景に怖じ気づいた時、自分の部下にすると言ってくれたことを忘れる訳がない。


あの日から先輩の背中を追いかけて追いかけて、男ばかりの集団に溶け込もうと必死だった。


現場へは滅多に連れていってくれないことへも不満を漏らしたことはない。少しでも役に立てるように、先輩が調べろと言ったことは徹底的に調べたし、現場へ向かった彼らが不自由しないよう根回しにも事欠かなかった。


「……私、先輩のこと好きなんです。」

「はいはい。わかったよ。」


数十回と繰り返されたやり取りに、顔色ひとつ変えずにヒラヒラと手を振って、煙草に火をつけようとしてやめた先輩は小さなため息をついた。


「あのな、名字。おどれの好きは憧れを恋やと勘違いしとるだけや。そのうちわかるよ。」

「違います!本当に、好きなんです。」

「もっと歳の近い男見てみ。」

「歳なんて気にしてません!そもそもそこまで離れてないですし……」

「こんだけ離れてたら充分じゃろ。おどれじゃ立たん。」


ハッと吐き出すように笑った先輩は今度こそ私に背を向けた。酷い言われように涙が溢れそうになるが、まだ諦める訳にはいかない。


「……試してから言ってください。」

「試すまでも……って泣くな。」


涙を留める事に失敗したらしい。困った顔をした先輩が私の頬に手を添える。ぐいと乱暴に流れたそれを拭われ、相変わらず困り顔の先輩がはっきりと見えた。


「……確かに、憧れもあるかもしれません。だけど好きだと思うこの気持ちが嘘だとも思えません。」

「ええか。おどれが今までワシを見てきたんは知っとる。だからこそ他の男なんか見とらんかったじゃろ。」

「それがどうしたんですか。」

「……いざ付き合って、やっぱりただの憧れでしたなんか言われたら、この枯れたおっさんにはキツイってことじゃ。」

「……え?」

「ちゃんと色んな男見て、それでもワシがええって思ったときもう一回言ってこい。」


逸らされた目線と、少しだけ赤くなった先輩の耳を見て、言われたことの意味を把握する。


「先輩!それって……」

「門倉立会人。」


はぁい、と返事して何時もより早足の先輩を追いかけた。






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