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□お好きなものを
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お好きなものを



南方へ自分の密かな思いを打ち明けてから数日……フリーの立ち会い依頼もなく、たまには休みを取るかと家路に着く途中、前を歩くスーツ姿に目を細めた。


あいつに借りを作らずに済むなと下らない事が頭を過り、保護者代わりの外務卿が居ないか瞬時に確かめてから、足を早める。


外務卿のガードが堅すぎてまともに彼女と話せない事が随分続いていたせいか、今この状況に緩む表情を引き締めた。


ちりちりと燃える下心をひた隠しながら声を掛けようと口を開いた瞬間、振り向いた彼女へ驚いた顔を見せてしまい思わず口許を覆う。


「お疲れ様です!門倉立会人。」


にっこりと笑みを見せた後、自然に隣に立った彼女は足並みを揃えて歩き出す。途端に彼女のいる側だけ緊張が走り、餓鬼じゃあるまいしと自らを嗜める。


「お疲れ様です、名前さん。今日はお一人なんですか?」

「ああ、泉江さんと丈一さんは今日は特別な任務があるとかで……私は自宅待機を命じられました!」


要するにお休みです!と楽しそうに笑うその顔に、自然を装い呼んでみた彼女の下の名前に、引き締めた表情が再び緩む。


「……お休みなんですね、私もです。」

「いいですね。立会人の皆さんはお忙しいですもんね。この後はゆっくりされるんですか?」

「いえ、何せ久々の休みなものでどう過ごせばいいのか悩んでいたところです。」

驚いた顔を見せた彼女は、キョロキョロと辺りを窺う仕草を見せたあと、秘密ですよ?と囁くように続けた。


「出勤してから、急遽お休みになった日は、コンビニでアイスを買って帰るんです。そして普段は見られないテレビを見ながらアイスを食べるんです。」


その話の何を秘密にするのか、わからなかったが相槌を打ちつつ先を促した。


「仕事だったはずの日が、おうちでごろごろしながらアイスを食べる!幸せでしょう?」

「……もうそろそろアイスは寒くないですか?」

「寒いときに室内で食べるアイスが贅沢を加速させるんですよ!」


ウキウキという効果音がぴったりな様子で話す彼女を微笑ましい気持ちで眺めながら、きっと彼女はアイスが好きなのだと1つ得た情報を踏まえて、この後どう誘うか思考を巡らせる。


「……門倉立会人、全然わかってないでしょ?この贅沢さ!」

「すみません……やったことがなかったので、よければご一緒させて頂いても?」

「そうですね!この贅沢をわからないなんて可哀想です。今からアイス買いに行きましょう!」


まるで使命かというほど張り切った様子の彼女は、少しだけ歩幅を大きくしてコンビニへ向かった。







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