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□計画的妨害
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そわそわと落ち着かない気持ちを、得意のポーカーフェイスで隠して、デスクを手早く片付ける。お気に入りのシフォンブラウスに、少しタイトなスカート、メイクも仕事中より色を添えて、確認した鏡に向かってにっこり微笑んだ。ばっちり、大丈夫、決まってる。


よし、そう小さく呟いて、ぽつりぽつりと帰り始めた同僚に続いて部署から出ようとした。


「……お疲れ様です、名字立会人。」

「お疲れ様です。弥鱈立会人。」


がん!と、私の行く道を塞ぐよう脚を伸ばした彼は、相変わらず目を合わせようとはしない。そのせいで何を考えているかわからず、苦手意識のある相手に、この歳になって、脚で通せんぼされるとは思わなかった。


挨拶だけ寄越して、何も言わない弥鱈立会人に疑問を浮かべる私は、困り果てて視線を送った。


「あの、退いて頂けます?」

「何故です?」


「こっちの台詞だ。」心の中だけで投げつけた言葉と、貼り付けた笑顔でなんとか退いて貰おうと様子を窺う。隠しきれないイラつきのせいでピクリと上げてしまった眉をチラリと見ながら溜め息を吐いた彼は、さも嫌そうな顔をして私に向き直った。


「この後どちらへ行かれるんですかぁ?」

「弥鱈立会人に関係あります?」

「質問の答えになってませんよ。」

「答えたくありません。退いて下さい。」


合コンと素直に答えてもよかったが、そんな話が賭朗内に広まれば、車椅子にのった世話好きの大先輩が相手を身繕おうと躍起になるに違いない。


私だって人並みに恋愛をしたいし、相手だって自分で選びたい。周りの友人も結婚し始めたし、恋をしたいと愚痴った私の為に開かれた飲み会を少なからず楽しみにしていた身としては、一刻も早くこの場を立ち去りたい。


「とりあえず!急いでるので通してください。」

「…………合コン行くんですか?」

「は?」

「合コン行くんですかと聞いたんです。」


知っているんじゃないか、先程よりも引き吊った笑みを浮かべて、目の前の弥鱈立会人を見つめた。


「はぁ〜。そうですよ!合コン、行くんです。」

「断ればいいじゃないですか。」

「何故!?」


溜め息を漏らしつつ返した言葉に、被せるように断れと言った彼を思わず凝視する。元々何を考えているかわからない人だったけれど、今日は飛び抜けてわからない。会話が成り立たず、相変わらず私を通す気のない彼は少し考える素振りを見せてから口を開いた。


「とりあえず、合コンでいい相手には出会えません。」

「そんなの……」

「わかります。出会えません。」

「だからって弥鱈立会人に関係な……」


ぐいっと腕を引っ張られて、縮まった彼との距離に動揺していると、耳元で聞こえた言葉に目を見開く。


「関係あります。……私が行って欲しくありません。」


え、と見上げる先にはじっと私を見つめる弥鱈立会人がいて、初めて目があったなんてぼうっと考えている間にも彼の言葉は続いていた。


「恋人がほしいなら、私はどうですか?貴女の仕事の事だって、立場が同じですし理解できます。稼ぎだってその合コン相手の男達よりうんと良いはずですし、何よりずっと前から貴女の事が好きです。」

「…………急すぎて、話についていけません。」

「でしょうね。」


そういって笑った弥鱈立会人が私の手を取って歩き出した。




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