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□それってもしかして
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所謂その界隈で"嘘喰い"と呼ばれるギャンブラー……斑目 貘は私のお得意様だ。私には理解も共感も出来ないけれど、彼は屋形越えを目指すために日々危ないギャンブルをしている。
そんな彼に勝負相手の情報を提供する事が私の仕事。貘さんはどんな情報でも高値で買い取ってくれる。だから私は貘さんからの仕事の依頼は喜んで受ける。
今日も呼び出されたホテルの部屋へ向かい中へ入るが、いつものメンバーじゃない白髪のおじ様が1人……警戒しつつも勧められたソファーへ腰掛けた。
「今日はさ、名前ちゃんにお願いがあるんだ。」
「勝負相手ですか?」
おじ様のことを気にする私を無視して、貘さんはにっこりと笑うと、下から覗き込むように首を傾げた。
「んー、いつものやつじゃなくて名前ちゃんと賭け、したいなって……ダメ?」
「私、賭けるものなんてないですよ?」
「あるじゃん。」
「……?お金は、貘さんのほうが持ってるし。貘さんみたいに命賭けるのなら嫌ですよ。」
「誰もそんなこと期待してないよ。」
にこにこ笑う貘さんをじっと見つめたけど、彼の顔に答えなんて書いてなかった。
「名前ちゃん自身。」
「それって命賭けろってことじゃないんですか?」
「違うよ。俺は名前ちゃんが欲しいの!」
「欲しいって……。」
「そのまんまの意味だよ。名前ちゃんが欲しい。」
見惚れるくらい綺麗な顔をした貘さんにじっと見つめられて、じわりと体温が上昇したのがわかった。何時もよりも真剣な表情で私を見る彼の蒼い瞳から目が逸らせない。
「えっと……つまり、セックスさせろってことですか?」
「それだけじゃなくて……名前ちゃんの全部俺のもんにしたいの。」
色気たっぷりに髪をかき上げた彼を見つめて、今の言葉を反芻する。それって、もしかして、思い上がりじゃなかったら、貘さん、私の事好きってことなの?先程よりも熱くなった体に、顔が赤くなっているのを感じて頬に手を当てた。
「今までのお話をまとめさせて頂きますと……貘様のご要望は名前様ご自身、名前様はその対価として何をお望みでしょうか?」
「何が望みって……」
おじ様に窺うように見られて、慌てて目を逸らす。そもそもこの人は何なの。
「立会人だよ。この人は俺の専属の夜行さん。」
「ご挨拶が遅くなってしまい申し訳ありませんでした。夜行 妃古壱です。以後お見知りおきを。」
「宜しくお願いします。」
然り気無く私の心を読んだかのように夜行さんを紹介した貘さんをちらりと見てため息を吐いた。自己紹介されても、いまいち状況の掴めていない私に夜行さんは柔らかな口調で説明し始めた。
「貘様が名前様を欲しいと仰っております。貘様からの挑戦を受けられるのであれば、勝負をして名前様が負けた場合、賭朗公認のもと名前様の身柄は貘様のもの、ということになります。逆に、名前様が勝たれた場合……貘様に何を望まれますか?という話をしておりました。」
「急に、そんなこと言われても……。」
「急じゃないよ、ずっと名前ちゃんが欲しかった。俺だけのもんにしたい。」
「だからって何で、普通に告白してくれればいいんじゃないですか。」
「……本当に欲しいものはギャンブルで手に入れるって決めてるんだ。」
少しだけ、本当に少しだけ顔を赤くして、何で勝負しよっか?と微笑む貘さんを見つめて何も返せない私は、もう彼に負けていたと思う。
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