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□大人ですから
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「……ね、メカ。」
「貴女にメカと呼ばれる筋合いはありません、名字立会人。」
「門倉さんはいいのに、私はだめなんですか?」
「そんなに仲良くないでしょう私達。」
「私は仲良いと思ってたんですけど。」
返事をしなくなった彼の横顔を興味のない振りをして一瞥した。思い上がりでなければ、少し嬉しそうに見えたがその事を口に出してしまうと、號奪戦になりかねない。彼との戦いを想像するまでもなく、足元にも及ばない私は口を紡ぐ。
「……で?私に何の相談ですか?門倉立会人のことを聞かれても答えかねますけど。」
「え、どうして門倉さんの事って……」
「いえ、彼の事を"さん"付けで呼んでいたので。」
相変わらず総い彼は「分かりやすすぎます。」と口元の力を僅かに抜いた……笑顔とは言いがたい表情で私に先を促した。
「知ってると思いますけど……何度かお食事に誘って頂いて、ご一緒してるんです。」
「まあ、それなりに話は聞いてますけど。」
「それで、つい先日……"泊まって行かないか"という趣旨の事を言われて。」
「は?」
「だから、一夜を共にしないかって事ですよ!」
「それはわかってますけど、それで?」
「遊ばれてるのかなって….…。逃げて来ちゃったんです。」
恐る恐る見上げた先で、目蒲立会人はこれでもかと呆れた顔で私を見下ろしている。
「それを私に相談してどうなるんです?……そもそも遊びなら何度も食事に誘うなんて面倒なことしないと思いますけど。」
「……そうかなぁ。」
冷たい態度を取りながらも"遊びではない"と言ってくれている彼に笑みを浮かべていると頭を小突かれた。
「にやにやと気持ち悪い顔をする前に本人に聞けばどうですか?」
「聞けないからこうしてメカに聞いてるのに。」
「……はぁ、もうメカでもいいですけど。あぁ見えて門っちは嫉妬深いから、どうなっても知りませんよ。」
「え……?」
頭を小突いた拳をやんわり解くと、そのままそこを何度か撫でて去っていく彼の背中を見送る。
「随分と目蒲立会人と仲が宜しいようで。」
入れ替わるように私の前に現れた話題の主に身体を固くしてしまう。気まずさから目を合わせないように俯いた私に門倉さんはゆっくりと言葉をかけてきた。
「名前さん、先日は驚かせてしまって申し訳ありませんでした。」
「いえ、こちらこそ……その、避けてしまうような態度を取ってしまって….」
「その事についてですが、遊びで誘ったのではありません。」
「あっ!はい。」
「失礼ですが、目蒲立会人とは何をお話されてたのですか?」
「それは……えっと。」
「私には言えないような間柄ですか?」
「そんなことは!……門倉立会人のことを相談していて。」
「そのようですね。」
ここまできたら誤魔化しても彼は引き下がらないと判断した私は、正直に話始める……が、返ってきたのは知っているという意味の言葉。
「どうして……」
「無防備すぎます。聞こえていました。」
「ごめんなさい。」
「謝るのはこちらです。貴女を悩ませてしまって……どうもこの歳になると、素直に言葉で伝えるのが苦手になるようです。」
じっと見つめられて、身動き出来なくなる。
「何度もデートしているのだから、言わずとも伝わるだろうだなんて、都合の良い事を考えていた罰ですね。」
「そんな……。」
「好きです、貴女のことが。」
返事をする前に引き寄せられて、彼の胸元に閉じ込められる。
「メカに相談してたってことは、脈なしちゃうやろ?……頷いてくれたら後悔させん。」
「……私も、好きです。」
「知っとる。でもこれからはメカに相談する前にワシに言え。」
ヤキモチですか?そう聞く前に唇を塞がれた。
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