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ちらりと窺い見た助手席には、きっちりと締めたシートベルトで身体のラインを強調させた名前がにこやかに座っている。
「……何でビデオ屋なんか行っとったん?」
「門倉さんとDVDでも観ようと思って……駄目でしたか?」
「いや、そんなことはないけど。」
こちらの気も知らずに何故笑っているんだと責めることも出来ずに、軽く溜め息を漏らした。
「あの、怒ってます?」
「怒ってはない。」
「けど……?」
「はぁ、ナンパなんかされよって……相手の男殺したい。」
「殺すって!」
「例えばの話じゃ。」
物騒ですね、そう言ってまた笑った名前が視線を窓に移した隙に彼女を横目で観察した。……いつもよりも大人びたその姿に見惚れ、声を掛けた男の様子を想像して舌打ちを1つ、それを聞いた彼女がしゅんと笑顔を曇らせたのはほんの一瞬で、次の瞬間には謝罪の言葉を述べる。
「……ごめんなさい。やっぱり怒ってるんですね。」
「いや、怒っとらんって。」
じっと涙の浮かんだ瞳に見つめられて、参ったと心中呟いて、溜め息混じりに言い訳を探した。
「着飾った名前のこと1番に見るのはワシが良かった、名前のこと可愛ええとかええ女やって思うのはワシだけでええのに、他のやつまでって考えたら苛ついただけじゃ。」
「それって……嫉妬ですか?」
「……そういうことになるね。」
ふふっと笑った彼女の手を取り、此方へ引くと、驚いた顔をして引き返すので、ブレーキを踏むと同時に強く引き寄せる。
駐車場で車を停めるより先に、言葉を紡ごうと開いた唇を奪うように塞いで、相変わらず赤く顔を染める名前の頬を両手で包み込んだ。
「……なぁ、早くワシのもんならんか?」
「もう、門倉さんのものですよ。」
「そうじゃなくて……」
「わかってます。昨日も、そのつもりでした。」
「まじか。」
「まじ、です。」
さっきよりも赤を深くした彼女は、その顔を見せまいと下を向くが、そうはさせるかと小さなその顎を掬い上げてやる。
「……今さらストップとか聞けんぞ。」
「好きです、門倉さん。」
今度は優しくキスをして、いつもより少しだけ乱暴に車を停めると、彼女を抱き抱えて自室へ急ぐ。「自分で歩けます。」なんて小さな抵抗は無視して寝室のベッドへなだれ込んだ。
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