short


□just a little……
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好きだと一言、そう"好きだ"そのたった3文字を口から絞り出すのに必要なエネルギーは想像を絶するものです。


彼女、名前さんに見つめられたら(いえ、最も見つめ合う関係でもないのでこの前の立ち会いの際のあれは、訝しげに私を見ていたと言った方が正しいでしょうが……)普段から無口を自覚している私でも、更に追い討ちを掛けられるかのように言葉を発せなくなる。


そんな私でも、前回かわした彼女との会話……「私のこと嫌いですか?」あれは、もっとはっきりと否定しなければならなかったとわかったが、しっかり出来なかったことを今更ながら悔やんでいる。


今からでも好きですと言ってしまおうか……


「あの、弥鱈立会人?全部聞こえてるんですけど。」

「チッ……すみません。」


振り返った視線の先には、彼女がいた。驚き目を見開く私に、少し気まずそうな顔を見せた後、「聞かなかった事にしますから!」そう言って慌てた様子で手を団扇代わりにパタパタと扇ぎながら走り去ろうと向けられた背に声を掛ける。


「名字立会人!……いえ、名前さん待って下さい!」

「はい。」

「此方を向いてもらえませんか?」

「……はい。」


恐る恐るといった様子で振り返った彼女の顔はほんの少し赤く染まっていた。


「私は、もう随分前から貴女の事が気になっていました……今では好きで好きで仕方がない。私だけのものにしてしまいたい。そう思っています。」

「えっと……いきなりで、なんて言っていいか。」

「今更気持ちが変わるだとか、そんな事は有り得ませんので。いつまででも待ちます。貴女の気持ちが私に向くまで。」

「弥鱈立会人のことを好きになるとは限りませんよ。」

「努力します。」

「私、きっと嫌われるって、そう思ってて……」

「いいえ、好きです。」


最後の言葉に被せるように好きだと言って、彼女の前に跪く。


「嫌でなければ、これから出来る限りお迎えに上がります。」

「……私も立会人ですよ?時間だって不規則です。」

「構いません。名前さんの為なら迎えに来ることくらいなんて事ない労力です。」


そっと手を取り様子を見るが、振り払われなかったので一瞬だけ……綺麗な指先に唇を落として、彼女を見上げた。


「弥鱈立会人って、意外と……情熱的なんですね。」

「貴女にだけです。」


クスリと笑った彼女は、私の手を引き「今日はこれから帰るところです。」と小さな声で言った。



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