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□冗談なわけないでしょう
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南方の後ろに着いて恐々といった様を見事に体現した自己紹介に心射たれた……訳でもなかったが、何となく、ただ何となく可愛らしいと思った。


そんな小さな感情を南方に溢してからの初めての機会に、やつは見事な働きをして見せた。


久しぶりに行われる賭朗親睦会でキョロキョロと席を探す名字に声を掛けた南方は、冗談めかした態度でワシと肩を組み、それとなく此方からの好意を名字へ伝えると、強引に彼女を隣へ座らせた。


渋々といった様子ではあったが大人しく自分の隣に座った名字に気をよくして、南方からのセクハラとも言える質問に律儀に答える彼女を可愛いと思って眺めていると話題は彼女の男関係の話になっていた。


然り気無く自分を推す南方に、よくやったと視線を送りつつも彼女の返事を待っていると、謙遜とも断りとも取れる言葉を吐くので、酒の席だと開き直ってもう少し分かりやすく迫ることに決めて言葉を掛けてみる。


冗談でしょう?なんて覗き込む仕草が誘っているようにしか見えないなんて思われているとは欠片も気付いていないだろう彼女との距離を少しだけ詰めると、彼女の身体に緊張が走ったことが見て取れて口角が上がるが平静を装い掌で隠した。


空のグラスを指差し何か頼むか、出来るだけ色を込めた声で訊ねると、顔を赤くした名字は「あんまり飲むと、酔っちゃうんで……私、そんなにお酒強くないですし。」そう言って視線を逸らした。


これは期待できると、大人しく引き下がるよう返事をしたあとじっと見つめて、赤くなったその頬に唇を寄せる。


「酔ったら送ってったるよ。下心あるけど。」


他の男に見せたら殺す、というくらい可愛らしい顔を見せた名字はどんどん酒を煽り、遂には酔い潰れてしまった。ニヤニヤと笑う南方に見送られながら彼女を家まで送ることになったが、彼女の家を知らない。


仕方なく自宅へ連れてきて、そっとベッドへ寝かせた彼女の頬を撫でるとキスをねだられた……ここで我慢できる男などいるのだろうか。


「門倉立会人……キス、して。」

「本気か?」

「ぅん。」


閉じているのか開けているのかわからないような蕩けた瞳で見つめてくる姿を眺めて、目に毒だと逸らそうにも、開かれた両腕の間に吸い寄せられるように絡め取られる。引き寄せられるまま彼女の華奢な身体の上に自らの身体を重ねた。


「……っふ……んぅ。」


誘ったわりには拙い口付けに笑みを溢しながらも、逃げようとする薄く熱い舌を追いかける。漏れる吐息の間に混じる甘い声が頭に直接響いてだんだん身体まで熱くさせてくる。


「待って、門倉立会人……。」

「今さら嫌とか言うなよ。」

「ちがっ!わたし……こういうこと、慣れてなくて。」

「はっ!慣れてたら、相手の男殺したる。」


シャツに掛けた手を恥ずかしいと掴む彼女をあやすように「雄大って呼んでみ。」と囁いて、小さな唇が自分の名前を呼ぶ前にもう一度キスで塞いでやった。



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