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門倉さんを見送った後、彼が無事に帰ってきますようにと、どこにいるかわからない神様にお願いした。そして、今日は少し外出してみようと思い立ちクローゼットを開く。
門倉さんの部下のお兄さんと買い物に行ったとき以外にも、門倉さんはお土産だと言って洋服や靴やバッグをプレゼントしてくれた。
以前私が身につけていた物よりも高級で大人っぽいデザインのそれらを眺めて緩む口元。
門倉さんの好みなのかな……私に似合うと思って選んでくれたのかな、なんて乙女な思考に浸りながら、まだ1度も袖を通していなかったワンピースを身につけて鏡の前で自分とにらめっこし、色気の無い自分を恨んだ。
綺麗な形のワンピースは上品に身体のラインを彩っていて、普通の女の子である私を少し大人っぽくさせている。そして洋服に負けないように普段よりもメイクに力を入れてみた。
何とか仕上がった姿に、門倉さんはどんな顔をするだろうと想像してドキドキした。
「……どこに行こうかなぁ。」
あまりどこに何があるか把握していない私は、取り敢えず最寄りの駅の方へ向かってみることにした。
街中を歩くと、ここ最近私の身に起こったことなんて無かったかのように、日常が溢れていて拍子抜けする。身構えて外に出た割りには段々と門倉さんに出会う前の感覚が戻ってきて、ブラブラと目的地もなく歩く。
その時ふと通りかかったレンタルビデオ屋さんが目に留まり、門倉さんと映画でも見ながらお酒を飲むなんて大人のお家デートだとにやにや妄想しながらお店に足を踏み入れた。
休日に観に行った映画や、見逃してしまった映画……色々なパッケージのDVDが並んだ棚の前を歩いていたとき、ふと気がつく。
(……私、身分証持ってない。)
どうしたものかと考え込んでいると隣に人が立つ気配がして、慌てて飛び退いた。
「何かお困りのようですね。」
「あ、いえ。」
「僕で良ければお聞きしましょうか?探してるDVDでもあるんですか?」
キラリと効果音の付きそうな笑顔を私に向けるその人は、私よりも少し年下かな……そう思わせる風貌の男の人だった。
「探してるDVDとかではなくてですね……身分証を持っていなくて。なので、また来ます!」
「あ、待って……」
すみません!そう言って立ち去ろうとした私の目の前に、今度は背の高い男の人が立ちはだかった。
「待つよ。カジの話最後まで聞いてあげるね。」
「マー君、お姉さん驚いちゃうでしょ。」
ビックリして男の人を見上げる私の隣に、いつの間に現れたのか白い髪の男の人が立っていて、にっこりと此方を覗き込んできた。
「えっと、あの……私、もう帰るところなので。」
「DVD借りたいんでしょ?俺らが一緒に借りてあげるから、梶ちゃんに連絡先教えてあげて、ね?」
これはもしかして、ナンパなの?人生初のナンパ?なんてどきどきしながら目の前の男の人達をじっと見る。
最初に声を掛けてきた人は(多分、この人が梶ちゃん)爽やかな好青年といった感じ。背の高い少し言葉遣いがたどたどしいお兄さんはエキゾチックなハンサムさん。最後の真っ白なお兄さんは、男の人なのか疑うくらい綺麗で、私に声を掛けてきたなんて何かの冗談としか思えない。
「ちょっと!貘さん!僕の邪魔しないで下さいよ!」
「何よ、梶ちゃん。逃げられそうだったじゃない。」
「う、それは……これからだったんすから!」
「へ〜!じゃあ貘さんは今からは優しく見守っておくよ。」
「カジ!頑張るよ!マルコも応援してるから!」
1人考え込む私をよそに、何か言い合っている3人に囲まれていた私の携帯電話が鳴り響いた。
(門倉さんからだ。)
「あの、出ても良いですか?」
「ん?ど〜ぞ!」
真っ白なお兄さんが笑顔で答えたのを確認して、門倉さんからの電話に出た。
「もしもし、名前です。」
「どこおるん?」
「お家の近くのビデオ屋さんです。」
「……1人か?」
「1人です。」
「レンタル出来たん?出来んやろ?身分証ないし。」
「それで、困ってたんですけど、今調度声を掛けられて……。」
「声掛けられた?男か?」
「えっと……」
「5分以内にそっち着くから、待っとけ。」
私の返事を聞くより前に切られた電話に、少し怒った門倉さんの声に、ふうと息を着いて携帯電話を耳元から離すと、3人が私を見ていた。
「名前さんっていうんすね。」
「はい、名前です。梶さん?」
「はい!梶です!……もしかして今のって彼氏ですか?」
「…………彼氏では、ないです。」
「そうすか!またここに来ますか?」
「多分。」
「また会えたら!今度会えたら連絡先教えてください!」
そう言って手を振った梶さんは、後の2人を引っ張ってお店から出ていってしまった。
(ナンパ……門倉さん怒ってた、どうしよう。)
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