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安心しきったように眠る名前を抱き締めて、その姿を堪能しつつ浅い眠りに落ちそうになっていた自分の腕の中で身動ぎする気配を感じ覚醒した意識。それとは裏腹に目を閉じたまま彼女の様子を窺う。
すぐ目の前にいる名前の吐息を感じて、何をしとるんだこいつはと目を開けようか考えていたとき、更に密着してきた柔らかさ。
そんなことで年甲斐もなく高鳴った鼓動を隠すために少しだけ身体を強張らせた瞬間口元を掠めた確かな暖かさにまたドキリとさせられる。
相変わらずこちらの気も知らずにやってくれるなと内心舌打ちをして、これはこれで面白いのでもう少し様子を見ようと寝た振りを続けた。
遠慮がちな口付けのあと、じっと見つめる視線を感じたと思うと同時にクスリと笑う声が聞こえ、再び唇が寄せられる。
先程の掠めるようなキスとは違い数秒ほど重なった唇に漏れそうになる笑いを堪えていると離れて行こうとする温もりに、そっと目を開いて驚く名前の顔を見つめた。
あたふたと慌てて赤く染まった顔を名前が隠そうとする事なんてお見通しだと言うように、それよりも先に、頭から引き寄せ深く口付けてやる。
「……っ!かどっ……。」
甘ったるい吐息の混じった制止の声なんて無視して逃げようとする自分よりも小さな舌を絡め取り、薄いそれを味わうよう何度も擦り合わせた。くたっと力の抜けた名前が軽く開いた視界に入ったところで、名残惜しいが解放してやり上気し何時もより色気のある顔を覗き込む。
「はぁっ!……急に、こんな!」
「クッ!寝込み襲ったんはどっちじゃ。」
「襲ってません!ちょっと、その……。」
「ちょっと?」
息を乱した名前が照れたような顔をしながら必死で睨み付けてくるのを可愛ええやっちゃと眺めて、少しいじめてやろうと話を続けた。
「……キス、してただけです。」
「ほぉ!寝てるワシに?キス?」
「実は、起きてたんですか?」
「寝てたよ。」
「嘘でしょ!」
「ほんま。」
絶対起きてたと小さく呟いた彼女の頭を撫でようと手を伸ばす前に抱きついてきたので少し驚く。
「……今日はえらい煽るの。」
「え?」
質が悪いことに無意識にすり寄る名前が此方を見上げたと同時に小さな唇を塞いだ。いつもならぎゅっと肩を掴んだり胸元を押し返してくる筈なのに、力を抜いてキスに応えるような仕草を見せる名前。
「嫌がらんの?」
「……やじゃない。」
「ワシのこと好きか?」
「たぶん。」
喜びに綻ぶ口元を見られないよう文句を呟いてもう一度だけキスをした。こんなにも仕事に行くのが面倒になったことがあっただろうかと溜息を吐きながらも良い歳をした男がサボるわけにもいかないと身支度を整えた。
心なしか寂しそうに見える名前をチラリと盗み見て、今日も出来る限り早く帰ろうと心に誓い、愛しい笑顔に見送られて部屋を後にし駐車場へ向かう。
「……どんだけハマっとるんじゃ。」
静かな車内に響いた一人言を掻き消すように音楽のボリュームを上げて、賭朗本部へ車を走らせた。
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