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□星が綺麗ですね。
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隣で耳に手を当て、何やら一生懸命聞き入っていた名前をじっと見つめていたが、ふいに自分へ向けられた彼女の瞳に慌てて空を仰ぎ見る。


「門倉立会人!」

「……どうしました?名字立会人。」


彼女の落ち着かない様子に嫌な予感がしつつも返事と視線をそちらへ寄越すと、やはり……直感とは正しいもので、どうしたと先を促した事を後悔した。


「あのですね、複合動詞には順番があるんです。」

「はぁ……。」


それでと発する代わりにじっと彼女の方を覗き見る。


「例えば……"崩れ落ちる"は"崩れて"、"落ちる"から"崩れ落ちる"でしょ?」

「そうですね。」

「"落ち崩れる"じゃ駄目でしょ?」

「まぁ、そうなりますね。」


そして得意気に笑った彼女がとんでもない事を言い出した。


「じゃあ"すったもんだ"って間違ってると思いません?」

「……仰る意味がわかりません。」

「だって普通……"揉んで"から"吸う"でしょう?」


そこまで聞いて固まる自分をよそにどうだと言わんばかりの姿勢を見せて、ね?ね?と覗き込んでくるこの女を憎からず思っている事を何故だと自問自答する。

当然ながら答えが出ることはなく、固まった私に更に追い討ちを掛けるように詰め寄った彼女が言った台詞に此方も開き直ることにした。


「門倉立会人も"揉んで"から"吸う"でしょう?」

「それ、私に聞きます?」

「お屋形様もそうらしいですよ!」


お屋形様と言った彼女に、あぁ先程耳に手を当てていたのはお屋形様と誰かの会話を盗聴でもしていたのかとどこか他人事のように考えて、クスクス笑う彼女に近づいた。


呑気に笑う彼女に、出来るだけ色を含んだ声で答える。


「私も、"揉んで"から"吸い"ますよ。」

「やっぱり!じゃあ"すったもんだ"は間違いってことですね!」


ポンっと手を合わせたその肩をそっと押しやり近くの壁に追い詰める。


「……門倉立会人?」

「百聞は一見にしかず。と言いますでしょう?」


小さな耳に収まるインカムをそっと外して、そこに囁くと肩を跳ね上げるのを見つめてくつりと喉を鳴らした。


「や、あの……遠慮して……」

「遠慮なんてなさらずに。」


これ以上、後退るスペースなんてないのに、腰を引いた彼女を引き寄せて耳朶を舐め上げれば漏れる悲鳴に今度は此方がクスクス笑う番で、押さえきれない笑みに小さく「失敬!」と呟いた。


「門倉立会人、私……。」

「好きです、名前さん。ずっと前から。」


何か言おうとした唇を親指でそっと開くと、反射的に閉じられた瞳に短く口付けた。



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