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□気付いてないの?
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ソファーに体重を預けるように脚を投げ出し天井を仰ぎ見る姿も、傍目から見ると様になっている。だが当の本人はそんなこと意識もしていないのか、悩ましげに問題の人物をチラッと見て溜息を吐いた。
「梶ちゃん、最近の賭朗勝負なんだけどさぁ……どう思う?」
「どうって?何がです?」
「立会人だよ。門倉さんばっかり来るじゃん、あの人フリーの筈でしょ?しかも毎回すっごい睨まれるの!」
「気のせいでしょ〜。それより今日の相手はどんな人です?」
「くららだよ。それよか、今日も門倉さんに睨まれるのかな、やだやだ!」
俺の勘だと、マルコがこないだ助けた女の子……名前ちゃんが関係してるような気がしないでもないんだけどなぁ。
確か始まりはこんなだった。
住居代わりにしているホテルで、くららと賭けをする際に夜行さんを呼んだら取り立て中らしく代わりに現れた門倉さんは、名前ちゃんを見て目を見開いたんだ。
「貘様……そちらの女性は?」
「あぁ、名前ちゃんって言うの。」
「そうではなくて……。」
「何かチンピラに絡まれて風俗に売られそうになってたところをマーくんが助けて連れてきたの。それでそのまま居候って感じかな。」
「左様でございますか。」
「どうしたの?知り合いか何か?」
「いいえ、この場には些か不釣り合いかと思っただけです。失礼しました。」
それきり名前ちゃんの事には触れずに過ぎていった時間……でも確かに、あれ以来門倉さんが立ち会いに訪れる事が多くなった。そして本人は気付いてないのだろうが、部屋に入った瞬間、名前ちゃんの姿を視線だけで探していることも。
これは探る価値があると込み上げる笑いを堪えて、今日も来るであろう彼の到着を待つ間に名前ちゃんを呼ぶ。
「名前ちゃん、おいで。」
「なあに?貘さん。」
「もう少ししたらトランプで勝負するから、隣で見ててもいいよ。」
横たえていた身体を起こして自分の隣をポンっと叩くと素直に横に座る彼女の頭を撫でる。梶ちゃんの羨ましそうな視線は気にしない。あとは門倉さんが来るのを待つだけ……。
想像通り今日も門倉さんが現れて名前ちゃんの姿を隻眼で捉えた瞬間彼の纏う雰囲気が変わった。
「……やばい。怒ってる。」
「え?貘さん何か言った?」
「気のせいだよ、名前ちゃん。」
「早く、くらら来ないかな。」
門倉さんが凄い睨み付けてきてる。やっぱり門倉さんてば名前ちゃんのこと好きなのかな。何にしてもこのままじゃ殺されそうだし、ここは1つ貸しってことでとにやつく口許を隠して、そっと名前ちゃんに耳打ちした。
「……名前ちゃん、門倉さんのこと誉めてあげて。」
不思議そうな顔をした名前ちゃんに、ね?と彼を誉めるように促す。疑問符を浮かべたまま、素直に門倉さんを誉める名前ちゃんを横目に頷いた。
「門倉さん……今日も格好いいですね。」
「なっ……!名前様、ありがとうございます。とても嬉しいです。」
さっきまで俺のこと殺す勢いで睨み付けて来ていた門倉さんの雰囲気が一気に柔らかくなった。
「門倉さん、結構わかりやすいんだね。」
これからも門倉さんは名前ちゃんに会うために立ち会いに来るんだろうなぁと思いながらくららが鳴らしたインターホンの音を聞いて、浮わついた気持ちをギャンブルモードに切り替えた。
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