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買い物に連れてってもらい、いつも優しいお兄さんが帰った後キッチンでハンバーグを作っていく。
門倉さんの分のだけ大きく作って、お弁当なんて作るときがくるだろうかと冷凍出来るよう小振りのハンバーグも幾つか拵えた。
煮込みハンバーグにしようと調味料を合わせて少し煮込んでいる間に付け合わせのポテトサラダと、スープも作ってこれだけじゃ男の人には物足りないかと悩み他に何を作ろうか考える。
考えながら、そうだ!帰ってきたらすぐにお風呂に入れるように準備もしておこう……と思い付いてお風呂を掃除していると玄関の方から微かに聞こえた音に耳を澄ませた。
門倉さんが帰ってきたとしたら中々入ってこないのはどうしてだろう、まさか怪我をしたとか、そんな知らせを伝えに来た彼の部下だったら……そう思いながらも確かに聞こえた足音に意を決してドアを開けると、やはり門倉さんの姿が目に入って安心して笑顔を彼に向ける。
「やっぱり!お帰りなさい。」
「ただいま。」
私がドアを開けたときに一瞬だけ合った彼の目が見開いていたように見えたのは気のせいだったのか、すぐにいつもの顔に戻った門倉さんが「ただいま。」と返してくれた。
思いの外早かった彼の帰宅に、ハンバーグの他に何か作る時間がなかったなと苦笑しながらも先に食事にするかお風呂にするかを訪ねると固まる門倉さん。
「門倉さん、ごはんにします?お風呂もすぐに入れるようにしてますよ!」
「……もうおどれ名字門倉に変えるか。」
「……え?ごはんですか?」
私の問いに困ったような顔をして何かを呟いた門倉さんに、彼の言葉が聞き取れなかった私は質問で返す。すると、今度は苦い顔をされて戸惑った。
怒らせてしまったのかと様子を窺うように見上げた私をそっと引き寄せ抱き締めた門倉さんは、溜息を吐きながらもう一度「ただいま。」と言うので、気付かれないよう背中に腕を回して返事をする。
「ただいま。」
「……おかえりなさい。」
「なあ、キスしてもええ?」
「えっ?どうしたんですか?」
急にそんなことを聞かれて、はいとも言えずに誤魔化す私を見つめて一瞬だけ唇を触れさせた門倉さんは、ここに連れてこられた最初の日と同じように私を軽々と抱き上げると中へ足を進めた。
「門倉さん……おろして。」
「もうちょい、このままおらして。」
抱き締められたままの格好で耳元に好きだと囁かれて顔から火が出そうになっていると、彼が笑うのが聞こえて恥ずかしさのあまり目を閉じる。
まるで恋人同士のような甘い雰囲気に、私も好きです。と返しそうになるのを彼の匂いと共に飲み込んだ。きつく回されていた腕の力が緩んだときに門倉さんに視線を合わせるようにじっと彼を見た。
「……門倉さん、私も、門倉さんのこと嫌いじゃないですよ。」
「……好きって言わんか。」
彼の体温を感じながら抱き締められたままの身体を少しだけ押し付けるようにして好きの代わりに伝えた台詞に苦笑されたが、手袋越しに優しく頭を撫でられ緩む頬に彼の事が本当に好きだと実感する。
「作ってくれたんじゃろ?……ハンバーグ。」
「ばっちりです!」
「食べよ。楽しみにしてたんじゃ。」
楽しそうな門倉さんに小さく頷いてキッチンへ向かうと、追いかけるようについてきた彼は食卓へ運ぶのを手伝ってくれて、相変わらず優しいんだな微笑んでいるともう一度頭を撫でられた。
二人向かい合って座ったテーブルで、いただきますと綺麗に手を合わせた彼に見惚れながら、ハンバーグが口元へ運ばれるのをじっと見守る。食べにくい溢した門倉さんはやっぱり綺麗にそれを食べると少しだけ笑った。
「うまいよ。」
「よかったぁ!頑張って作りました!」
うまいの一言に安心して、自分も食べ始めると、じっと見つめてくる視線に気付いて居心地が悪くなる。
「恥ずかしいから見ないで下さい。」
「お互い様じゃ。」
本当に新婚みたいで、こんな時間がずっと続けばいいのにと思いながら食事を楽しんだ。門倉さんは気持ちいいくらい沢山食べてくれて、彼の話を聞きながら次は何を作ろうか質問しようと口を開きかけたとき、今まで笑っていた門倉さんが表情を強張らせたことに気付いて張り詰めた空気。
「名前、外出たいか?」
「そうですね。わざわざお買い物に門倉さんのところから誰か来てもらうのも悪いし……」
突然の問い掛けに、やっぱり私のことを帰そうとしているのかと明後日の方向の返事をした。
「そうじゃのうて……仕事とか、戻りたいか?」
「……仕事ね。誇りを持って働いてる門倉さんにこんなこと言うのは恥ずかしいですけど、あんまり仕事に未練とかはないです。」
「そうか。1日中ここで退屈してんのもえらいじゃろ……買い物くらい好きに行ってええよ。」
「ありがとう!」
私の答えを聞いて柔らかい雰囲気に戻った門倉さんは、買い物くらい好きに行けと笑ったので私を帰す気は無いのだと安心して、嬉しくなってありがとうと伝える。
いつか「飽きた。」と言われるのではと嫌な想像を繰り返しては、門倉さんが伝えてくれる好きだと言う言葉が嘘ではないようにと願う気持ちが強くなっていって。
早く私も素直に好きだと言えるように自信を持たなければと焦る気持ちを無視して、片付けるとキッチンへ向かう途中、後ろから抱き寄せられた。
「……片付け、後でええから。風呂一緒に入るか?」
「入りません!片付けておくんでお風呂どうぞ。」
冗談まじりにからかうその行動1つ1つにドキドキしているなんて、彼はきっと気付いていないだろうと苦笑して今度こそキッチンへ向かった。
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