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□ツンデレ
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例えば弥鱈さんがとっても素直だったと仮定して、私のことを好きかと問えば何て答えるだろう。
そんなことを日々考えるくらいに私と弥鱈さんは曖昧な関係だった。二人で食事に行くことはよくあるし、その帰りに送ってもらった車内でキスを交わすことだってある……一度だけ、身体を重ねたこともある。ただ、好きだと言う言葉は交わしていない。
都合の良い女と言われればそれまで。ただ、お互いにとって特別な存在であると思っている、というかそうありたい。
彼にとっての私……そんな自問自答を繰り返した所で答えなんて見つからなくて……はっきり好きだと言えない私と、どちらとも取れない態度を取る彼との関係をはっきりさせるべき時がきた。
きっかけは私がある人に交際を申し込まれたことだ。私は弥鱈さんが好きなので断ろうとした……だけど交際を申し込んできた相手、巳虎さんは(壱號と混同してしまうのでこう呼ばせて貰っている。)付き合っている相手がいないのなら食事くらいはいいんじゃないかと食い下がってきたのだ。
彼の主張は、好きな相手がいるといってもその相手と相思相愛でないのなら、自分が入る余地はあるだろうし、もしかしたらその好きな相手よりも良いところが見つかるかもしれないのだから見識を広げろ、といった感じだった。
納得してしまった私は、半ば押されぎみにその申し出を受けてしまった。……ただし、弥鱈さんに私達の関係をどう思うか聞いてからという条件付きで。
そして今、ここ最近でも1番といっていいくらい不機嫌な様子を隠そうともしない弥鱈さんが前に立っている。
竦み上がり彼を見上げる私は、震える唇を誤魔化すように話を切り出した。
「……あの、弥鱈さんは私のこと、どう思ってますか?」
「どうとは?」
気だるげに答える彼の声にびくりと身を縮めた。私の問い掛けに、同じく問い掛けで返した彼が空気に放った気泡と溜息。それら2つがその場の空気を重くする。
「私達って、どういう関係なのかなって。」
「言うまでもないでしょう。」
心底嫌そうな顔をした弥鱈さんがもう一度泡を舌先から私のほうへ飛ばした。それを目で追いながら失恋を覚悟したとき、耳元で聞こえた低い声。
「能輪立会人に何を吹き込まれたか知りませんが….…貴女のことを譲る気はありませんよ。」
「え……?」
「察しが悪いですねぇ……名前さん、貴女は私のものでしょう?それとも能輪立会人のほうがよくなりました?」
頭に顎を乗せられ抱き締められる。恐る恐る彼の背中に腕を回すと強く抱き締め返された。
「苦しっ。弥鱈さん、私……弥鱈さんのこと、好きです。」
「知ってます。だからこうして抱き締めてるんでしょう。」
「私、弥鱈さんの気持ち知らない、です。」
抱き締めていた腕をほどいて、覗き込むように目を合わせた弥鱈さんがぎこちなく笑った。
「好きでもない女性と何度も食事に行ったりしません。」
「ちゃんと言ってくれないとわかりません。」
「……好きですよ、名前さん。」
その言葉を聞いて、弥鱈さんのほうを見上げると視界を塞ぐように掌で視線を遮られ、抗議しようと開いた口は、彼のもので塞がれた。
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