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□07
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柔らかいシーツに包まれる感覚の中、目を覚ますと広いベッドに寝転んでいた。辺りを見渡し、ふかふかのベッドから身体を起こす。
ソファーで寝たはずなんだけどなぁと呟きながら恐る恐る部屋から出ると、記憶に新しいリビングが目に入りほっとする。
「起きたん。なんか食うか?何もないけど。」
突然声が聞こえてきたので驚きそちらを見ると、お風呂に入っていたらしく……上半身裸で、髪を拭きながら私を見つめる門倉さんと目が合い、慌てて反らした。
「服、着てください。」
「……おどれがワシの服着とるんやろ。返してくれるんか?」
あっ!と自分の身体を見下ろす。確かに、彼のトレーナを着ていた……クスクス笑いながら此方を見られ、なんだか恥ずかしくなって服の裾を引っ張りながら謝る。
「ごめんなさい。部屋で着る服を買うの忘れてて。」
「ええけど、そんな格好で寝とるから誘っとるんか思ったわ。」
髪を掻き上げながら言う門倉さんに見惚れている自分に気が付いて、はっとして頭を振った。
「誘ってません。それより、あんなに色々買って貰っちゃって……私どうしたら……」
「ククッ。そっちがそんな気無くても、その格好じゃあな。今日の買い物は気にせんでええよ、必要な物やしの。」
「必要って、あんなにですか?」
「これからここで暮らすからね。おどれが住んでたマンションも引き払っといたし、退職届も出しといたよ。」
「……はい?」
門倉さんの口から飛び出た驚愕の言葉にただただ目を丸くしてしまう。
「メシ作って、あとは洗濯かな。それしてくれたらええよ。その他一切は面倒見たる。」
「仕事……え?マンションも?どうしてですか?!」
「おお、急に大声だすな。びっくりしたじゃろ。おどれはワシが買うたんやから、ワシの元でおるべきやろ。」
「拒否権は……」
「無いに決まっとるやろ。」
私がさっきまで寝ていた寝室に入っていった門倉さんは、Tシャツを着て戻ってきた。あ、また楽しそうな顔をしている。
「名前、正直に言うわ。ワシ、おどれのこと気に入っとる。だからワシについてきたら悪いようにはせん。どうや?」
顎を掬われ、唇が当たるか当たらないかの距離で言われて顔に熱が集まってくるのがわかった。至近距離で目を合わせられ、恥ずかしさが限界に達したとき、目を閉じると唇に暖かい感触。
「……っ!なっ、に……ぅん!」
また強引にキスされて彼の肩を押そうと手を出したが、私の行動がわかっていたかのような動きでその手を取って指を絡めてくる彼に合わせて握り返してしまった自分に驚いたとき、離された唇。
「はっ……。もっと抵抗せえ。そんな顔しても誘っとるようにしか見えんよ。」
そう言われてはっとする。嫌じゃなかった……相変わらず服の裾を握り締める私をそっと抱き寄せた門倉さんは、そのままの姿勢で静かに囁いた。
「……おどれがワシのこと好きなるまで待つから。そうなった時教えてくれ。」
「……なりません。」
すぐには答えられなかった私を、また楽しそうな顔で笑った門倉さんが覗き込んできて、もう一度唇に軽くキスされる。
「させてみせる。……取り敢えず着替えろ。どっかメシ食いに行こ。」
リビングに私を残して門倉さんが向かった寝室の扉を見つめる。先程言われた言葉の意味を考えては、見えてくる答えに顔を赤らめる自分がいることに戸惑いだらけのまま、今日買ったばかりの洋服に着替えた。
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