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いつも通りに数件の立ち会いを終えて、早々に帰宅しようと部下達に声を掛けていると、名前の付き添いを頼んでいた部下が現場に顔を覗かせたのに気付いて呼び止める。


「どうやった?」

「はい、雄大君に渡されたリスト通り必要な物は買い揃えました。今は雄大君の家で休んでると思います。」

「悪かったの、ご苦労様。」

「そんな!お役に立ててよかったです。」

「じゃあ、後は任せた。ワシは帰るわ。」

「お疲れ様です。」


普段よりも足取り軽く自宅へ向かう。逃げ出す余地を与えたつもりだったが、名前はおとなしく家にいるらしい。ついつい上がる口角を、誰にともなく隠して車に乗り込んだ。


運転している途中、信号に引っかかる度に焦る自分に苦笑しながら、やっと目的の玄関へ辿り着いたとき、すぅと深呼吸した。自分の家に入るのに緊張するやつがあるかと再び苦笑する。


そっとドアを開けると、物音1つしない……。やはり逃げ出したのかと溜息を溢してリビングへ向かうとソファーで寝ている名前の姿を見つけてほっと息を吐いた。


テーブルを見ると、風呂へ入ることを律儀にメモで伝えようとしていたらしい形跡を見つけて、漏れた笑み。


いちいち可愛ええやっちゃ。と眠る名前と置いてあったメモを交互に見比べ、彼女らしい綺麗な字で書かれたそれを財布にしまい、ソファーに近づいた。


「……こんなとこで寝てたら風邪ひくやろ。」


返事があるわけでもないのに話しかける……。顔にかかる髪をそっと避けてやり、少しの間寝顔を見つめて、寝室に連れていくために抱き抱えた。


その時、床に落ちてしまった彼女の身体を覆っていた毛布を視界の隅で確認し、再び彼女を見て唖然とする。


「何でワシの服1枚しか着とらんのじゃ、こいつは。」


思わず漏れた声に反応して身を捩る名前を起こさないよう、今度こそ静かに寝室へ運んだ。


ベッドへそっと寝かせるともぞもぞと動く姿が可愛くて、自分も横に寝転ぶ。無防備に晒された脚や胸元から目を反らし、何度も髪を撫でているとすり寄ってきたので、恐る恐る抱き締めた。


「……はぁ、何の拷問じゃ。」


幸せそうに眠る名前をもう一度見つめて、警戒心が無いおどれが悪いと言い訳のように呟き、薄く開いた唇にそっと自分のものを重ねた。


自分と同じ匂いを纏った名前をもう一度だけ抱き締め、これ以上は身体に毒だとシャワーを浴びに浴室へ向かった。




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