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自分の部屋に名前を残して、車に乗り込むと、南方に「今から行く。」と電話で伝えて返事を聞く前に通話を終了させた。


車を走らせる途中さっきまで名前が座っていた助手席に視線をやっては、怖がっていた様子を思い出して舌打ちすると、煙草に火を着け思い切り吸い込んだ。


それほど遠くない南方の家について、インターホンを何度も押すと呆れた顔をして出てきた南方。そして部屋に招き入れながらも訊ねてくる。



「いきなりどうしたん?さては女と喧嘩でもしたんかぁ〜?……そもそもそんな女おったんか?」

「……買ったんよ。」

「買ったのかぁ!……て、は?どういうこと?」

「色々訳ありでの……取り立て対象なった女を買うたんじゃ。」

「……まじで、女絡みか。」


冗談混じりに笑っていた南方が興味津々な様子で覗き込んでくるので、ふん!と目を反らす。


「あんまりにもワシのこと怖がるから、取り敢えず家に置いてきた。」

「……そりゃそうだろうよ。それにしても買ったって、いくらでだ?」

「自身を担保に賭郎から金借りるときの値段知っとるじゃろ?」

「成人男性200万円……。」

「女もそない変わらん。」

「200万って見ず知らずの女助ける為に出す金額か?……そんなに良い女だったのか?」


先程から此方の神経を逆撫でするような笑みを見せながら話していた南方が、更に笑みを深くさせたのを睨み付けてやる。舌打ちもおまけに寄越してやった。


「……ええ女って言うよりは、可愛ええ感じかの。」

「要するにタイプだったんだろ?」

「まあ、そういうことになるね。」


お前……、と口許を押さえて笑う南方に軽く拳をお見舞いして溜息を吐いた。


「……で、どうしたらええかわからん。」

「喰っちまったのか?」

「そうしようと思ったけど、震えとったからやめた。」


今度こそ押さえようともせずに笑って、目に涙を溜めながらしゃがみこむのを見下ろして、同じくそのとなりにしゃがみこむ。


「取り敢えず、次顔合わせるときからは優しくしようと思っとるんやけど……。」

「門倉、お前……恋愛向いてないんだな。」

「やかましい、黙っとれ。おどれに相談したワシがアホやった。」

「クッ、あの門倉がっ。ククッ!」


それから、どんな女か紹介しろだの、女にはプレゼントと優しい言葉だ、だとか先輩面してアドバイスしてくる南方に適当に頷きながら酒を飲んでいると気付けば、朝になっていた。


「邪魔したの、ワシはちょっと用事あるから行くわ。」

「おお〜、また話聞いてやるからな。」


寝惚け半分で机に突っ伏す南方を置いて部屋を後にし、向かった先は賭郎本部の立会人控え室。


そっと室内を覗くと、目的の人物とその取り巻きを見つけて唾を飲み込む。やめておこうか少し悩みながら、諦めたところで自身の抱える問題は解決できないので意を決してその相手に声をかけた。


「……お願いしたいことがあるのですが、最上立会人。」

「あら、珍しいわね。どうなさいました?門倉立会人。」


何故か勝ち誇った顔で取り巻きを下がらせた最上立会人は、組んだ腕の片方を上げて頬杖をついたような体制になると、此方を見上げてきた。


「……女性が出掛けるのに必要な服や、身だしなみを整えるのに必要なもの一式を用意して頂きたいのですが。」

「どういう意味?彼女が手ぶらで泊まりにでもいらしたの?」

「そういうことです。」

「ふぅん。服に靴に、メイク道具ってところ?」

「私にはわかりかねますので、それをお願いにきたのです。」

「……ま、いいわ。細かいことは今度教えて頂ければ!用意するけど門倉立会人に渡せばよろしくて?」

「お気遣いに感謝っ!いいえ、部下に取りに行かせますので。」


ほっと一息つきながら、ではと彼女のもとからさっさと逃げ出した。これで、後は部下に任せておけば名前は必要な物を買いに出掛けられるだろうと、自分の仕事に専念すべく気持ちを切り替え、ネクタイを締め直した。





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