short


□please chocolate!
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自宅の見慣れた玄関のドアを開けたはずなのに、ちょこんと揃えられた見慣れないハイヒールが目に止まって、家を間違えたのかと一瞬考えた。


だが、そのハイヒール以外はやはり見慣れた我が家……誰かが勝手に上がり込んでいるのは明白で、溜息を飲み込んで警戒しつつリビングへ足を進めた。


「あ、お帰りなさい〜。」


「はぁ……貴女でしたか、名前さん。どうやって入ったんですか?」


いたずらにクスクス笑った彼女が見せた掌には細長い金属の棒が数本……ピッキングして入ったということだろう。


「知ってますかぁ〜?それってはんざ……」


「ほんの数秒で開いたよ。セキュリティが甘すぎるね、このマンション。」


遮られた言葉をもう一度紡ぐ気にはなれずに、ソファーで寛ぐ彼女を見下ろす。


「で、何のために人の部屋に不法侵入したんです?」


「そうそう!悠助君、バレンタインチョコ貰った?」


「……貰いたかった相手からは貰ってないです。」


チラッと目を合わせるように瞳を覗きながら答えたが、今の言葉の意味に気づかない彼女は唇で綺麗な弧を描いて見せた。


「好きな子いたんだ?……でも他の子からは貰えたんだね、モテるじゃん!」


「別に、嬉しくなんてないですけど〜。」


それがどうしたのか、訊ねようと口を開き掛けたとき聞こえた耳障りの良い声にうんざりした。


「どうせ捨てちゃうんだろうから食べに来てあげたの。」


「はぁ、そういうことですか。」


ほんの少しだけ期待した自分が可哀想になったが、やはりなと小さく呟いて先日貰ったチョコレートを彼女へ差し出す。


「わぁ〜!いいやつ貰ってるねぇ。本命でしょ、これは。」


ぶつぶつ呟きながらも美味しそうに、幸せそうにチョコレートを頬張る姿に苦笑して、そっと彼女の肩に触れた。


「?……やっぱり食べたくなったの?」


「いえ。待っていても貰えないなら、此方から頂こうと思って……」



無防備に見上げてきたその瞳を掌で覆って、驚いて薄く開いた唇に自らのものを重ねる。


「……んぅっ。」


どんどんと叩かれる胸なんて痛くない……この程度の力では。


チョコレート味のキスを堪能して、彼女がぐったりしてきたので解放してやると真っ赤な顔をして睨まれた。


「いきなり……こんなっ!」


「名前さんからのチョコレートが欲しかったので。」


ばか。そう言って差し出された小さな箱を見て柄にもなく微笑む。


「好きです、名前さん。」


囁きながら抱き寄せると頼りない力で背中に回された腕にさらに口角が上がる。


「私も。」


呟くように動かされた唇をもう一度塞いだ。





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