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□構ってください。
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年末から正月に掛けて続いた飲み会で太っているという自覚は多少なりともあった……あったのだけど、体重計の数値云々は一旦捨て置いたとして、お腹から腰回りにかけてぷよっと下着の上に乗りかけた贅肉を見て唖然とした。
仮にも立会人という頭と身体を酷使する職務をこなしている身にも関わらず、この怠けきった身体。これは早々に何とかしなくてはとクローゼットの奥に眠っていたトレーニングウェアを引っ張りだす。
向かった先は賭郎本部内にあるトレーニングルーム。入社当初こそ利用していたが、今となっては全く寄り付かなくなったこの場所にまた脚を踏み入れる日が来るとは。
手早く着替えてウォーミングアップからだとランニングマシンへ向かう途中、貸し切りだったルームへ誰かが入ってきた音がした。
「……名前、こんなとこおったん。探したよ。」
「雄大、どうしたの?」
「今日朝から立ち会い1件だけであとはオフって言うてたじゃろ?」
「うん。言ってたね。」
何が言いたいのかわからず、不機嫌そうな雄大を片目にランニングを続ける。
「オフやのに、ワシの家来んとこんなとこで過ごすつもりか?」
「……ちょっと太ったの。これから出来るだけトレーニングして引き締めるつもり。」
じとっと此方を見つめる彼を無視して少しスピードを上げて、じんわり汗ばむ肌をタオルで拭った。
「太ったって、そない変わらんじゃろ。はよ帰るぞ。」
「ダメ!……見てよこれ。」
このままじゃ私が諦めるまで側で帰る帰らないのやり取りが続くと思い、一時停止ボタンを押した。マシンから降りて、問題のお腹をぷよっと指で摘まんで見せる。
動きを止めた途端に噴き出す汗に不快感を感じて眉をしかめるが、目の前の雄大はもっと顰めっ面をしている。
「……それのどこが太ったって?それくらいのことでワシのこと放っておくつもりか?」
「何もしてなくても引き締まってる雄大にはわかんないんですぅ!」
拗ねた雄大は無視して、腹筋を鍛えるマシンへ向かおうとしたが後ろから抱き締められた。
「ワシはこれくらい柔らかいほうがええと思うけどね、硬い腹触ったって楽しないしの。……けど、まあ、トレーニング付き合ったる。」
お腹を撫でながら愉しそうに耳元で囁く声にドキッとして身体を離そうとするが、更に強く抱き締められた。
「ちょっと……汗、掻いてるから。」
「知っとる。」
「汗臭いから離れて。」
「嫌じゃ。」
ぎゅうとお腹に回された腕に力が込められて、首筋にざらついた感触。
「……っ!」
「ククッ!……しょっぱい。」
彼の舌がなぞった場所を手で押さえた。
「汗掻いてるんだから当たり前でしょ!」
「甘い匂いするんじゃけど。……ここは?しょっぱい?」
お腹をやわやわと撫でられ、恥ずかしさに目を閉じていると抱き上げられた。小さく悲鳴を漏らして、雄大の頭にしがみつく。
「ちょっと!何するの?……って、きゃ!」
近くのベンチに寝かされてさっきまで撫でられていたお腹をペロリと舐められ恥ずかしさが込み上げてくる。
「ええ感じに腹に力入っとるね。このまま続けたらトレーニングなるよ。」
「ならない!ちょっと雄大!こんなとこで盛んないで!」
すっかりその気になった彼を止めるために身体を起こそうとするが、支えにしていた腕を取られてそれもままならず、二の腕に噛みつかれる。
「いたっ……ね、待って。」
「待たん。」
いつの間にかスーツを脱いで、ネクタイを緩めた彼に熱くキスされてぼうっとしてくる意識の中でここが本部だと思い出す。
「……雄大、ここじゃやだ。帰ってからしよ。」
キスの合間に何とか伝えると、少し考えた雄大は仕方ないと頷き、私には大きすぎる彼のスーツを着せられて抱き上げられた。
「着替えるから!自分で歩けるし、ねえ!」
「やかましい、そんなん待てん。」
ずかずかと駐車場へ向かう雄大と、所謂お姫様抱っこで彼のスーツを着せられた私。
すれ違う黒服の人達が皆目を反らしたのは言うまでもない。
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