short


□ワンナイト
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微睡む意識の中で肌触りの良いシーツの感触を頬で感じて、もう一度眠りへ落ちようと瞼を閉じる寸前……後ろから抱き抱えるようにお腹へ回されている明らかに男のものだと分かる腕と、耳元で繰り返される自分のリズムとは違う呼吸に現実へ一気に引き戻された。


昨日は賭郎内で飲み会だった。随分飲まされた事は覚えているが、会場から出た記憶は無い。


まさか男とホテルで一夜を過ごして何も無かったなんて、そんな期待をするほど初ではないが一応確認する……やっぱり、裸。


後ろにいる男が賭郎の者であることは間違いないだろう。巳虎さん辺りならお酒の勢い、一夜の過ちで済ませられるだろうと昨日の自分に相手を間違えるなよと願いながらそっと身体の向きを変えた。


振り返った瞬間目の前に見えた寝顔に眩暈を覚える。よりによって、前から苦手だった門倉立会人……どこからどう見ても、彼本人に違いない。


綺麗なお顔を支えるその首筋に私が付けたであろう紅い印、肩にうっすら浮かぶ歯形、逞しい腕に走る引っ掻き傷に昨晩の盛り上がりが窺えて、頭を抱えた。


昨日の自分を恨みつつ、随分豪華なホテルへ連れてきてくれたのだなと室内を見渡し、暫くの間門倉立会人が目を覚ました時にかける言葉を考えていたが、目を覚ます気配も無いので逃げることにした。


起こさぬ様にもう一度背を向け、腕から抜け出そうと身を捩った。少し身体が離れて抜け出せそうになる度に、強く抱き直されては身を捩ることを繰り返すこと数分……枕を身代わりに何とか抜け出した私は床に散らかるスーツを拾い集めて急いで身に着けていたが、
ふと感じた視線に嫌な汗がどんどん吹き出してくる。


「声も掛けんのか、冷たいね……どこ行くつもりなん?」


いつの間にか目を覚ましたらしい、門倉立会人が私の苦手な、あの鋭い視線でじっと見つめてくる。


「あ……あの!そう、立ち会いが……」


「今日はないやろ、知っとるよ。」


どうして!言葉にはならずに口を開いたり閉じたりを繰り返してしまう。そんな私をいつか見た笑顔で見つめながら此方へ近づき、着ようとしていたシャツに手を伸ばす彼に身構える。


「これ、ワシのや。もう一泊取ってあるからゆっくりしたらええ。」


ゆったり寛ぐ彼に脱がされたシャツの代わりにシーツで身体を隠して、思いきって話を切り出した。


「昨日のこと……覚えてないんですけど、その……お互い、無かったことに……」


「しないよ。」


してください。と言い切る前に、しない。と言われて目を見開く。さっきの笑顔とは真逆の怖い顔をした門倉立会人に顎を掬われビクリと身体が強張った。


「そない怖がらんでええやろ。覚えてないんなら、思い出すまで付き合ったるよ。」


「……私、門倉立会人のこと苦手で……んっ!」


クスクス笑う彼に口付けられる。ちゅっと可愛らしい音と共に離れた彼の濡れた唇と、自らの指でそれを拭う仕草に顔を赤くしてしまう。


「ワシは火遊びなんかせんよ。そっちが遊びだったんなら、その考え取り消すまで帰さんつもりやけど。どうする?」


耳元でクスクス聞こえる声に、やっぱり門倉立会人は苦手だと溜め息を吐いた。私の溜め息を飲み込むように寄せられる唇に、深くなるキスに、応えて逞しい背中に腕を回すとそれを合図に抱き上げられた。






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