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□いろんないろ
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都心から少し離れた廃墟と化したビルで行われた賭朗勝負を終えて、夜行さんの運転でホテルへと帰る途中に何となしに窓から外を眺めていた。
最初は、砂埃か何かが空気中を舞っているのかと思っていたが……白い何かはだんだんと大きくなっていき、次第に地面や景色を白く彩り出した。
「夜行さん、雪だね。」
「その様ですね。冷えてきましたか?」
ルームミラー越しに此方を窺う様に視線を寄越して来た夜行さんに、大丈夫だと首を振って再び外を眺めた。
少し開けた道へ差し掛かった所で緩かに車を停めた夜行さんは「少し外に出ますか。」そう言って返事も聞かずに先に車を後にする。
彼に続いて白の世界に脚を踏み入れると、冬独特のキンと冷えた空気が鼻の奥を刺激した。
「……貘様、雪に何か思うところでも?」
年寄りのお節介というやつか、どうやら話を聞いてくれるつもりらしい。大袈裟に肩を竦めて笑って見せて、親に恋人を紹介するときのような気恥ずかしさを覚えながらも口を開いた。
「名前ちゃんがさ、『雪って貘さんみたいだね!真っ白でふわふわしてて……気付いたら消えちゃう。』って言ってたんだ。」
「おや。」
右隣に立った夜行さんが左眉を上げた。右眉も上げていたのかはわからない。けど、きっと片方だ。
「俺が彼氏じゃ、不安かな。」
「名前様のお気持ちまでは量りかねますが……貘様が白ならば、名前様はそこに色々な色を添えてくれる存在なのでしょうね。」
「俺にとっては、ね。」
それきり返事をせずに黙って横に佇む夜行さんは暫くすると「そろそろ冷えてきましたね。」そう言って車へ戻って行った。
冷えてしまった車内が暖かくなってきた頃に、小さな声で夜行さんが呟いた。
「色とりどりの色も、白いキャンバスが無いと活きないものですよ。」
ミラーで夜行さんの顔を見ようとしたけれど、確り前を見据えた彼の視線と交わることはなくて変わりにふふっと笑う声が聞こえた。
「ありがとう……夜行さん。帰ったら名前ちゃん怒ってるかな?」
「どうしてです?」
「また、命賭けちゃったから。」
今度は夜行さんが大袈裟に肩を竦めて、笑顔を作った。
「さあ。まあ、レディの機嫌を取るのは甘い手土産に限りますよ。ケーキ屋に寄ってから帰りましょうか。」
それっきり静かになった空間で、相変わらず空から降ってくる白を眺め続けた。
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