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□勘違いさせないで下さい。
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「…………は?今、何と?」


情事後に襲ってくる気だるさよりも、名前への愛しさが勝って自分の事は後回しに「大丈夫でしたか?」と気遣いの言葉を掛けてやり、恥ずかしそうに身体を隠す彼女に甲斐甲斐しく布団を掛ける。


布団にくるまった彼女を抱き締め、暫く髪を撫でているとすやすやと気持ち良さそうに寝入るその顔を眺めて堪能した後、門倉自身も眠りに堕ちる。


今まではずっとそうだった。だが今日は門倉が名前を抱き締めたところで身動ぎした名前が門倉を見上げるように顔を傾げて問いかけたのだ。


「だから、その…門倉さんは今ので満足してますか?」


自分の聞き間違いではなかったと門倉は固まる。この質問の意味は、つまりそういう事だろう。惚れた腫れたなどといった感情に振り回されて随分彼女に優しくしてきた自覚はある。が、そのせいで満足していないと言われれば、男の沽券に関わる。何時もよりも発する声に優しさが籠らなかったのは致し方無いことだ。


「つまり、貴女は満足していない…。そういう事ですか?」


門倉の冷たい声に機嫌が悪いと勘違いしたのか、そもそも質問が悪かったと思ったのか、そんなこと無いんですと慌てる彼女に、考え込む門倉。寝室に気まずい沈黙が訪れた。


ヤンチャな盛りは過ぎたし、自分の快感優先のセックス、自分のテクニックに酔うかの如く女を無理矢理絶頂へ導くセックスや、一夜限りのセックスなど色々経験してきた。そんな過去を経て、今……愛しい女と繋がる喜びや労る気持ちを持って行うセックスに門倉自身は満足していた。


不慣れな彼女に合わせた行為も不満に思うことなどなかった。そりゃあ、もう少し色々楽しめたらそれに越したことはないが……。だが、目の前の名前はそうではなかったのかと思い悩むように黙り込んだ門倉に気まずそうにだが、慌てて説明する名前。


「私が満足してないとかじゃなくて、その、想像してたより優しいというか……こう男の人ってもっと色々したがるというか……。」


「それは前の男と比べて、ということですか。」


少し機嫌を悪くさせた門倉が名前を見下ろし問いかけた。


「そんな!比べるだなんて。そもそも比べる程の経験なんてありません。」


再び慌てて否定する彼女を見ながら溜息を吐く。


今まで身体を重ねた様子からも彼女の言うことが最もだと体感しているのだが、わかってはいても自分の知らない過去に、自分よりも先に彼女に触れた男に嫉妬の炎を燃やしてしまう。


では何故と門倉が呟く前に名前が観念したように語りだした。


「こないだ、友達との飲み会で門倉さんのこと聞かれて……ちょっとだけえっちな話になったんです。それで、そんなので満足してるのとか他に女がいるから私とは……。だとか、言われて。」


今にも泣き出しそうな名前に、何だそんな事かと安堵の息を吐く門倉。先程までの不機嫌さなんてどこかに消し去り、むしろ上機嫌に優しく答える。


「良い友達をお持ちで……。私は今のままでとても満足していますよ。まあ、その友達の言うことも後々、といいますか名前さんが慣れてからと思っていたのですが……。」


自分を抱き締める腕に力が入ったことに気付いた名前が動くよりも早く、彼女へ覆い被さった門倉がその細い腕をシーツへ縫い付ける。少し顔を青くさせ表情を引きつらせた名前と愉しそうに笑う門倉。


「お望みのようなので、これからゆっくり教えて差し上げます。」


彼女の耳元で色気たっぷりに囁くと、ニッと笑って真っ赤に染まった耳朶を噛む。そんな些細なことで小さく漏れる声と揺れる身体にますます機嫌を好くする門倉。


「……あの、門倉さん。私まだ…………。」


「遠慮せんでええよ、名前も友達に言われて興味持ってくれたみたいやし。」


待ってと弱々しく吐き出された言葉も、重ねられる唇に飲み込まれるように消えてしまい、寝室に響くのは何時もより少しだけ大きくなった名前の喘ぎ声と門倉の息遣いだけだった。




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