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□もう諦めました。
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梶に呼び出され始まった賭朗勝負。相手方のフロイドの言葉を書き消すように門倉さんと叫ばれ塔の上から勢いよく飛び降りた。


どうせまた名前が騒ぎだすと思い、チラリと様子を窺うとじっと押し黙るように梶を見つめていたので少し違和感を抱くが、まあ静かに越したことはないとフロイド付きの立会人、肆號の御大と話を進めた。


梶とフロイドの賭けるモノの大きさが釣り合ってないと言う御大に名前の鋭い視線が向けられるのを横目に、余計なことはしてくれるなと念じて、出来る限りの交渉をしてやるが結局あちら側の要求を飲むことを了承した梶とチャンプ。


話が纏まったところで投げられたヘルメットを条件反射で受け止めた瞬間、パッコーンと額に衝撃を受けた。


「これぇ〜、オモロいのぉ〜。きゃどくらぁ〜。」


驚きよりも、ハリセンを構えて振り返った御大の喉元に突き付けられたイミテーションの剣の切っ先が見えたときヒヤリとした。当の御大は剣の先の名前を見据えて笑っていたのだけど。


「……キシャン、名字か。掃除人がどうして…きゃどくらについてキタんかのぉ〜。」


「肆號立会人、今の門倉さんへの攻撃…宣戦布告と受け取ってよろしいので?」


「ボホホッ、相変わらず好戦的じゃのぉ〜。キシャンの事は好きだぞっ。」


そんなやり取りを聞いていたつもりが無意識におもしろいと呟いて御大の懐から日本刀を抜き取っていた。驚いて飛び退いた彼女に大人しくしていろと言葉を掛けると不服そうにだが剣を腰へと納めたので頷く。


「…肆號が先に!」


「手ぇ出さん約束やったね?これ以上動き回るようやったら明日から動けんように犯しまくって足腰立たんようにしたるからの。」


「えっ!…帰ってからですか?」


「なんで照れとる、冗談じゃ。」


「大人しくしてます!」


脅し文句のつもりが喜び照れられたことに、再び頭痛が襲ってきたがこれ以上相手にしていたら悪化すると彼女から意識を反らす。


愉しそうな視線を向けてくる御大と敵意剥き出しの名前を遠ざけるようにして壁際で、今しがた思い付いた勝負を御大に持ちかける。


それを聞いて心底嬉しそうに笑った御大から今のキシャンのほうが好きだと有難いお言葉を頂き、準備に取りかかる前に彼女のもとへ戻った。


「勝負が終わるまで余計な口出しや手出しは一切せん。ここでじっと見守っとるって約束できたら、帰ってから可愛がったる。ええか?」


「…約束するから、キスして。」


「ああ、もう!……1回だけじゃ。」


素直な彼女は存外可愛い。そっと屈んで一瞬だけ触れ合わせた唇を、名残惜しく思いながら離すと横から聞こえた咳払いにそちらを見る。


「…門倉さん、いちゃつくのはあとにしてください。うらやましいっすけど。」


梶の存在を忘れていたことを誤魔化すように表情を取り繕って勝負内容を説明した。







文字通り命懸けの勝負であったが、途中梶が見せた覚悟と成長に少しばかり立会人としての何かを擽られ、燃えるものがあったこと以外は特に問題なく決着が着いた。……梶の腕は当分使い物にならない程度の怪我を負ってはいたが。


怪我の処置を行ってやり、この卍戦の意味するところを梶の口から聞いて驚いていたら背後から襲ってきたアウトロー。


そいつが振りかざしたナイフを左手で払い逆の手で裏拳をお見舞いし投げ飛ばして、さらにトドメの1発を入れたところで名前の声が聞こえた。


「きゃー!門倉さん!かっこいい!もう勝負は終わりましたよね!?私動いても………」


「まだ、取り立てが終わっとらん。じゃけぇ動くな。」


彼女を睨み付けて大人しくさせる。慌てて座り込むのを見届けてまだ襲ってくるアウトローがいないか周囲を確認する。


すると、無謀なことに御大に銃を向けて何かを要求しているアウトローが目に入り内心でご愁傷さまと呟いた。


自慢の日本刀を揺らし良い度胸よと凄む御大の威圧に圧されたのか動かない銃の男に来いと挑発する様子を見守る。


「さぁ来いよ…来ぬなら、一・二の三でいこうや…ホレ、イチ…二ッ」


腕を振るった音と自分の横を何かが通りすぎる音が重なってはっとして名前の所在を確認するが、さっき座っていた場所に姿はなかった。


舌打ちをして銃の男に視線を戻すと、御大が投げた手裏剣が指や顔に刺さった状態で名前に捻り挙げられ地面に突っ伏していた。


もう抑えきれない溜息と頭痛に思わず顔を覆う。呆気に取られる梶やチャンプなど放って彼女を捕まえに走った。


「だから!おどれは!動くな言うたんがわからんのか?売っとるんか?本気で動けんようにしたろか?危ないことすんなや。」


「…名字、キシャン!儂のエモノ横取りすんなやぁ〜!」


男二人に捲し立てられて瞳をパチパチさせた彼女はごめんなさいと笑顔で謝った。

「きゃどくら、アイツどうにかしとけよぉ〜。………それからキシャン、女に甘いのぉ〜。」


「申し訳ございません。」


ギリギリまで我慢してました!と叫ぶ彼女の腕を引っ張りながら宿舎へ帰る道すがら、どうやって仕置きしてやろうかそればかり考えた。




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