short


□誘惑彼女
1ページ/1ページ



見舞いに来た南方に自分が意識を失っている間の話を聞いて賭朗の変化に驚いていると、聞こえたドアをノックする音。


そう言えばリハビリの経過を確認するために主治医が来るとかなんとか言っていたなと思い出す。


「名字です、失礼します。門倉さん、検査の時間です。」


入ってきた名字を見て、南方が「美人じゃないか、羨ましいな。」なんて下心丸出しの顔で言っているのを嫌な顔をして睨み付けると、「また来るからな、うまいことやれよ!」と言って帰っていった。


何がうまいことやれじゃ、出来たらとっくにしとるわ。そう思いながら狭くなった視界で彼女を見ると検査とやらの準備をしているようだった。南方のやつのアホな言葉は聞こえとらんみたいやねと一息吐く。


正直、彼女の事はかなりタイプだ。それこそ南方の言うように"うまいこと"やりたい。が、身体も思うように動かない男が口説いたところで格好がつかないだろうと諦めモードだ。


情けない自分に溜息を溢しているとクスクス笑いながら身体に触れてくる。自分にはない触れた指先の柔らかさに邪な気持ちが膨らまないようにそこから無理矢理意識を反らす。


「疲れちゃいました?すぐ終わりますからね。今日は運動レベルの確認と神経伝達の確認をしますね。」


動かしてみて下さいだとか、力を入れて下さいといった細かい指示に従って検査が全て終わると、満足そうに笑顔を浮かべる。


「奇跡的なくらい順調なので、もう少し頑張りましょうね。何か困ってることはないですか?」


少し困らせても療養中のストレスだと言い訳できるだろうか、そんな事を考え動きにくい手で彼女の腕を引っ張り耳元へ囁いた。


「…溜まっとるんやけど。どうにかしてくれんか?」


きっと顔を赤くして困るだろうと思っていたのだが、見上げた先には妖艶な表情をした彼女の姿。


冗談だと言おうとしていた口をポカンと開けて思わず固まる。その間にそっと肩を押されて上に跨がられ、ちょっと待てと止めるよりも早く脳内へ直接響くような甘い声で囁かれた。


「誘ってるんですか?特定の相手がおありならお断りさせて頂きますが。」


「そんなんおったら誘わん。」


予想外の状況に高鳴る鼓動と、膨らんでいく期待に冷静になれともう一人の自分が叫んでいる。このやり取りの間にも、彼女の重みを身体で感じて少なからず反応する自身に気付かれないよう腰を引く。


「素敵だなと思っていた男性に誘われるなんて…据え膳喰わぬはってやつですね。」


そう言い、先程引いた腰のせいで空いた距離を詰めるように密着しながら唇を重ねてくる彼女に応えるように舌を絡めた。随分熱烈なそれに夢中になっていたが、名前を呼ぼうとして知らないことに気付く。


漸く離れた唇に名残惜しさを感じながらも彼女に尋ねる。


「…名前知らんのやけど。」


「……名前です。名前で呼んでくれるんですね。」


「これきりにするつもりはないからの。なぁ名前もうちょいこっち来んか。」


熱い吐息を含んで首筋に歯を立てる名前に、されるばかりではと胸元に手を伸ばすが簡単に抑えられてしまう。


「…怪我人は大人しく、ね?」


「動けるようなったら覚えとけ。」


「ふふ…リハビリ頑張りましょうね、雄大さん。」


そう言ってゆっくり服を脱がしてくる彼女に、焦らすなと凄んで見せると笑いながらキスされた。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ