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□過保護な彼。
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同僚達とランチタイムを楽しんでいると鳴り響いた携帯電話の着信音に私へと集まる視線。ごめんねと呟き電話に出ると、慌てた上司の声が用件のみを一方的に告げてきて、次に聞こえたのは通話終了を知らせるプーっという機械音。
唖然とする私に一緒にいた皆がどうしたのと聞いてくるのに答える。
「…や、何かまずいことしちゃったみたいで。すぐに帰ってこいって。」
なになに?何したの?なんて聞いてくる彼女達に、聞きたいのは私の方だと愚痴を溢しながら、食べきっていなかったパスタを急いでたいらげる。平日のランチにしては奮発したのだ、少しくらい上司を待たせても多目に見て貰いたいところだ。名残惜しいがデザートは任せることにして会社へと急いだ。
上司の元へと向かいどうしたのですかと聞くと物凄い形相で捲し立てられる。
「どうしたのですかじゃないよ、名字さん!上からの通達で部署移動になったから!立会人がもうすぐ迎えにくるはずだから準備して。」
どういうこと?私、賭朗務めっていっても表の業務なんだけど。立会人って裏の方じゃん、私人生踏み外しちゃうの?そんな疑問ばかりが浮かんでいた私の耳に飛び込んできた聞き慣れた声に嫌な汗が背中を伝った。
「ご苦労様です。今日から名字 名前さんには私の元に来てもらうので宜しくお願いします。」
事務所の皆の視線を集めた彼が私にどんどん近づいてくる。周りで、立会人がどうしてここに?などとひそひそ話すのが聞こえた。
不気味な笑顔で私の肩を叩く立会人…門倉 雄大に他人の振りをして問い掛ける。
「あの、どうして私が貴方の元に?」
元々上がっていた唇を更に歪に吊り上げ、
「貴方の仕事の速さは耳に届いておりますよ、名字さん。いえね、実はお恥ずかしながらデータ処理が得意な人間が私の部下にはおりませんでね、貴方の噂を聞きお力を貸していただこうと参上した次第でございます。」
私の手を取り甲に軽く口付け早口にそう言われた。このやり取りを聞いていた頼れる…上司は他人事だとばかりに口を挟む。
「良かったよ!ね、名字さん!今よりも給料も上がるし、門倉さんは優しそうだし、ね!頑張って来なさい。」
嘘を付くなと恨みを込めて睨んだが、はいはい!と背中を押されて事務所を追い出された。雄大の何処が優しそうなんだ…睨み付けられて震えていたくせに、私を売ったなとぶつぶつ文句を言っていたが、手ぶらなことに気づいて
「私、荷物が!」
「後で黒服に取りに行かせる。」
手を引く彼に大きな声で話し掛けると、不機嫌そうに振り返られた。
「名前が悪いんじゃ。こっちには迎えに来るなとか、ばったり廊下で会っても他人の振りするし。今だってワシとの関係隠そうとしたしね。もうこうなったら一緒に働くしかないじゃろ。」
何でそうなると思ったが、そんな事彼に訴えた所でまともな対応が返ってきた試しは無いので大人しく黙る。
そして付き合っている事を秘密にしてと頼んだことを随分根に持っていたらしい…そもそも関係を隠すことを嫌がる彼にどうしてもと頼んだのは私だった。
「立会人と付き合ってるって知られたら、同僚の女の子から追及されちゃうし…立会人と合コンしてとか頼まれそうだし、雄大そんなの苦手でしょ?」
「…友達の前でくらいええ彼氏出来るつもりやけどの。ワシのこと紹介すんの恥ずかしいんか?それとも部署に目当てのやつでもおるんか?浮気か?」
急にしょんぼりと言われた言葉に慌てて否定しようと口を開くと、目の前に差し出された紙袋。
「なにこれ?」
「まあ、これからはそんな心配もいらんね。それと…出来るだけ送り迎えするけど万が一の時の為にね。護身用に持っとけ。」
そう言われて袋から中身を取り出す。
「…スタンガン?」
「そうじゃ、賭朗仕様のな。おっ!ちょうどええとこに…………南方〜、こっち来いや!」
急に近くを通り過ぎようとした南方という男の人を呼んでそこに立てと指示する彼。
「何してんの?」
「ほれ、名前さっき渡したやつこいつに向けてスイッチ押してみ。」
びっくりして南方さんを見る。彼もびっくりした顔で雄大に突っ込んだ。
「おい、門倉。いきなりなんだ。さっき渡したやつってなんだ。」
もっともな彼の問いにスタンガンを見せると顔を青ざめさせて雄大に捲し立てる。
「お前!俺を殺す気か!そもそも何で俺が撃たれるんだ!」
「練習や!おどれ銃で撃たれても死なんかったやろ。大丈夫じゃ!」
大丈夫じゃない!と叫ぶ南方さんにごめんなさいと謝りながら、これから仕事中もこの調子で雄大から干渉されるのかと思うと疲労感が身体を襲った。
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