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□勝手にしてください。
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ああ、頭が痛い。どうしてこうもワシを悩ませるのが得意なのか、この女は。


「…名字掃除人。どうして貴女がここ、プロトポロスに入卍しているのですか?」


担当である梶は先程マルコに引き摺られてどこかに行ってしまったが、まあすぐに追い掛ければ問題ないだろうと目の前の、より大きな…というよりは面倒な問題の解決に取り掛かることにした。


「門倉さん!その呼び方はだめです!私ここでは"名前"でプレーヤー登録してますので!」


会話の序盤からいちいち溜息を溢していたらキリがないのだが、やはり溢さずにはいられない。


「はぁ、それでなんで名前がここにおるん?」


よくぞ聞いてくれたという顔をして話し出した彼女に対して、額に青筋が浮かんでいることなど他人から指摘されるまでもなく自覚できた。


「卍を貼ると聞いてですね、しかも期間が2週間なんて!そんなに門倉さんに会えないなんて…私、寂しくて。なので個人的に奴隷としてプロトポロスというゲームに参加することにしました!」


「なんでじゃ。せめて市民やろ。」


一瞬でも可愛いと思った自分がバカだったと思うと同時に突っ込んでしまう。


「それで、門倉さんの弐號復帰後初めての大勝負に何かお手伝いできないかと考えて…」

「もうええ。その気持ちだけで充分じゃ。だから大人しくワシのマンションの守りやっといてくれんか?」

「Biosを稼いで門倉さんにお渡ししようと思って!闘技場に登録してきました!」

「おい、聞けや。」


ちょっと待て、こいつ今何て言うた?闘技場に登録?いやいやいや。ありえん。


額を押さえ先程から酷くなる頭痛に今度こそ大きな溜息をついていると、何を勘違いしたのか嬉しそうに此方を覗き込みながら、感激しました?なんて聞いてくる名前を睨み付ける。


「だから!門倉さんは安心して私にBiosを賭けて下さいね!私も最初は弱いふりして場を盛り上げますから!」

「…これから長期の立ち会いのときは監禁したるからな、覚えとけよ。」

「え?聞こえなかったです。」


役に立ったと喜ぶ彼女を冷ややかに見つめながら、そうだと思い出しマルコと梶を探す。


「ちょいついてこい。」


そう声を掛けると上機嫌で後を着いてくる名前に少しだけ気を良くしてしまう自分も大概だ。


目的のマルコと梶を見つけると、ちょうど嘘喰いと合流出来た所だったらしく嘘喰いがマルコの肩を叩きながら、


「よく来たねマルコ。疲れてない?アメ食べる?何でも買ってあげる。」


と声を掛けていた。それを羨ましそうに見ている梶を押しのけ、自らもマルコに声を掛ける。


「…マルコ様、私…門倉も何でも買って差し上げますので1つお願いしても宜しいでしょうか。」


マルコよりも驚いた顔の嘘喰いに見つめられるがそんな事は構っていられない。


「リンゴのおじさん。どうした、マルコに出来ることなら協力するよ。」


快く聞いてくれるマルコの前に名前を押し出す。


「このバカ、いえ失敬。此方の女性を闘技場のバトルの際に守って頂きたいのです。」


いきなりの申し出に嘘喰いが間に入ってきて


「ちょっと門倉さん、説明が足りないんじゃない?そもそも誰よ。このお姉さん…可愛いね。」


人の彼女をじろじろと品定めするように見る嘘喰いに心の中で舌打ちしながらも、奴の言うことも最もだったので仕方なく名前を紹介する。


「彼女は、賭朗掃除人の名字
名前さんです。手違いでこの世界に来てしまって、さらに手違いで闘技場に登録してしまったらしく…あまり目立つことは避けたいのでマルコ様のお力を貸して頂ければ助かります。」


まあそれとなく説明出来ただろうと名前の様子を盗み見ると気に入らないのか口を挟んできた。嘘喰いに握手まで求めている。


「そうです!私、賭朗掃除人の名字 名前でございます。以後お見知り置きを。門倉さんの手助けの為に来ました。私も充分闘えるのでご心配には及びません。」

「おどれが闘うとか死人しか出んわ。それに他の男に触るな。」


握手に応えようとしている嘘喰いの手をやんわり遠ざけ、彼女にだけ聞こえる程の声で呟く。そしてお前は黙っていろと意を込めて彼女を睨み付けるが当の本人は気付かず、嘘喰いだけが「ふぅん。」と厭らしい笑みを向けてきたので笑顔で取り繕う。


「まっ、いいよいいよ!マルコ、お姉ちゃんのこと守ってあげてね。それと門倉さん、可愛いね、名前ちゃん。ちょうど俺の国と同じみたいだし、プレーヤーだから手伝って貰っても問題ないよね?」


きっと自分達の関係をわかって言ってきたのだろう台詞に、何とか気持ちが表情に出ないように返事をする。


「さあ。彼女次第でしょうね。ゲームに関して協力することに意義はありませんが、賭朗勝負において彼女が関わったからといって貘様の有利になるように取り計らったりは致しませんので、悪しからず。」


お姉ちゃんのこと守るよ!と張り切っているマルコを横目に笑う嘘喰い。


「嘘つきだね、門倉さん。」




これからどうやって名前を大人しくさせるか考えるばかりか、期間中嘘喰いに弱味を握られたことを悟る。


溢れる溜息が虚しく、暫くの間だけでも現実から目を逸らそうと瞳を閉じた。




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