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□どちらがお好き? side貴方
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賭朗OLになって2年と少し。一般事務から離れて立会人直属の事務に配属された。拾陸號立会人の下に就くと聞いたとき門倉さんだと喜んだのも一瞬で、そう言えば彼は怪我のあと暫しの休みを経て弐號として復帰したことを思い出す。
門倉さんは私が入社したときから廊下や休憩所で会うたびに声を掛けてくれて、ジュースをご馳走してくれたり、弱音を聞いてくれたりする私にとっては頼れるお兄さんのような存在だった。
そんな門倉さんの後を継いだ拾陸號立会人はどんな人なのか…不安を抱えながらお目通しの場で挨拶をしたこれから上司となる人は、少し門倉さんを思い出させる風貌で、後々知ったことだったがどうやら二人は旧知の仲らしい…とにかく気さくで優しく随分と可愛がってくれた。
きっと、一人でやってしまったほうが早く片付くであろう仕事も私を付き添わせてくれて、少しでも早く私が仕事を覚えられるよう気遣ってくれているのがわかる。
そんな優しい上司…南方さんと今日も業務を終え、エレベーターから降りた所で門倉さんとばったり会った。
数日前に門倉さんにジュースをご馳走してもらったばかりだった私はお礼を口にする。
「門倉さん!こないだはご馳走さまでした!」
私をにこやかに見た門倉さんに気持ちがほっこりするが、隣の南方さんはどことなく不機嫌そうで疑問に思っていたところ
「名字、門倉に何か奢ってもらったのか?俺に言えば何時でも奢ってやるぞ。」
そう言われて、直属の上司の前での他の人にご馳走してもらった話なんてしたら南方さんの面子が立たないではないかと気付いて慌てて訂正する。
「いつも自販機の前で会うとジュースをご馳走してくれて…」
慌てる私を見ていた門倉さんは南方さんの方へと向き直り
「…ジュースだけじゃなくて、ほんとは食事にも誘いたいんじゃけどね。」
なんて笑って言っているので、今のは私に言ったのかな、南方さんに言ったのかなと考えていたところ感じた不穏な空気。
仲良かったんじゃなかった?なんて疑問を解決する気など起きない程の二人の威圧感に居たたまれなくなって
「ありがとうございますー!私まだ仕事があるので失礼しますね!」
取り敢えず逃げた。
事務所に戻りそういえば解らなくて放ったままだった書類だけ仕上げて帰ろうとデスクへ向かったところで
…やっぱりさっきの門倉さんの言葉は仕事終わりの私と南方さんへ掛けたものだったのかも。
今更ながら気掛かりになってきたので南方さんへメールを送ることにした。
さっきの食事の話本当なら焼き鳥食べに行きませんか?焼き鳥嫌いじゃなかったらですけど、美味しいお店知ってます!
これで安心!と再び書類とにらめっこしていると誰かが事務所へ入ってきた物音がした。
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