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□どちらがお好き?side南方
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エレベーター前でのやり取りの後、意地の悪い笑みを残していった門倉が向かった先で名字を口説く姿を想像して苛つく気持ちと、何とか名字と門倉が二人で食事に行くことを阻止しようと企む思考に頭を支配される。


漸く纏まった思考を行動に移すべく門倉の後を追うことにした。


ドアを開けると机に向かう彼女を後ろから閉じ込めるように机に手を付きその耳元へ顔を寄せる門倉の姿が目に入る。


舌打ちをしながら足音を響かせ二人に近づくと、此方に気付いた門倉が眉を寄せて睨んできたあと、やけにわざとらしく彼女の肩に手を置き"にっ"と効果音が聞こえそうな顔で言った。


「では私は少しだけ用事がありますので、後程お迎えに上がりますね。…名前さん。」


去っていく門倉を一瞥したあと彼女に声を掛けた。


「名字大丈夫か?門倉になにもされてないか?」


振り向いた彼女の顔は些か赤かったが、特に何もないと言う彼女は続ける。


「…南方さんも一緒に食事行きますよね?さっき門倉さんに聞いたら、どうだろうって言ってたんですけど。」


吊り上がりそうになる口端を何とか正常な位置に保ち、勿論だと答えると微笑む彼女。


「よかったぁ。ちょっと緊張しちゃって、南方さんがいると安心です。」


どういう意味だ、なんて考えても本人に聞かない限りは答えがでないこの言葉に頭を悩ませる。


着替えに行った彼女を待つため喫煙所に足を運ぶと先客がいた。門倉だ、しかも不機嫌そうな。原因を何となくわかっている南方は門倉の前に立ち、煙草に火をつける。



「…で?南方、おどれも来るん?」

「当たり前だろ。お前、口説けなかったのか?」

「何となくわかっとったけど…天然やね、名前は。」


溜息と煙を吐き出す門倉を睨み付けると此方の言いたいことが分かったのかにやにやと表情を崩し話を続ける。


「ククッ。南方は上司と部下の関係やから名字やもんね。ワシはさっき名前って呼んでええって言われたよ。まぁ、一件目はおどれがおるほうが名前も話しやすいやろ。ついてきてもええよ。」

「一件目はって…最後まで着いていくからな。」

「…さっき確認したけど、南方は明日朝から立ち会い入っとったよ。ワシは休み。名前はどうやったかの。」


こいつ、さっきそれを…睨み付けたところで益々嬉しそうな顔をする門倉に反撃の言葉を探しているとパタパタと此方へ近づく足音。


素早く火を消し喫煙所を出る門倉に遅れを取らぬよう喫煙所を出る。


「お待たせしました!」


少し息を切らせて笑顔で言う彼女は私服姿も相まって可愛い、かなり可愛い。隣の門倉を見ると同じ事を思っていたのか一瞬見せただらしない顔を引き締め、


「全然待っていませんよ。普段のスーツ姿よりも断然素敵ですね、名前さん。見惚れてしまいました。」


などと普段なら絶対言わないであろう台詞をさらりと彼女へ寄越している。


誉められた名字は嬉しそうに頬を染め、いつの間にか門倉が腰に回した手を受け入れ歩き出す。


少し先を行く二人の間に割り込もうと足を進めたところで、またも振り返った門倉が声には出さず


「 あ き ら め ろ 」


唇を動かしたのを気付かぬ振りをした。

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