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□どちらがお好き?side門倉
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またか。エレベーターでばったり会った南方の隣にいる女を見て舌打ちをする。ここ最近の南方の"お気に入り"は、門倉が以前から気に掛けていた女と同じだった。


一人でも出来る仕事でさえも彼女を側に控えさせ連れ回す南方が気に入らない。


門倉自身も賭朗内の気になる存在を南方に酒の席で話してはいたが、わざわざ名前までは言っていなかった。


そもそもそんなことをすると面白がる南方のネタになるだけだと思っていたのだが、こんなことなら言っておくべきだったと後悔しても遅い。


南方が拾陸號になってからその下に配属されたと知ったのは南方のお気に入り発言の後だったし、彼女と門倉の仲は何度か鉢合わせた自販機の前で遠慮する彼女に対し無理矢理ジュースを買ってやったくらい。


南方の隣からにこにこと

「門倉さん!こないだはご馳走さまでした!」


と言う彼女に爽やかな笑顔を向け、すぐさま南方を睨み付ける。自分の知らない彼女と門倉の話に気を悪くしたのか顔をしためた南方は


「名字、門倉に何か奢ってもらったのか?俺に言えば何時でも奢ってやるぞ。」


なんて、然り気無く自分のアピールまでしているのだから奴も相当彼女を気に入っている。


「いつも自販機の前で会うとジュースをご馳走してくれて…」


説明する彼女を見た後、南方と視線を合わせたまま彼女に話し掛ける。


「…ジュースだけじゃなくて、ほんとは食事にも誘いたいんじゃけどね。」


これで解ったただろうと挑発的な笑みを向ける。此方の意図に直ぐ様気付いた南方は目を見開きにらみ返してくる。


そんな男二人の闘いに気付いてもいない彼女は、どちらへの返事かわからない言葉を残して去っていった。


「ありがとうございますー!私まだ仕事があるので失礼しますね!」


………残された二人の間の沈黙を破ったのは南方だった。


「門倉、まさかお前の言ってた女は名字のことか?」

「それはワシの台詞じゃ、南方。おどれの趣味とちゃうやろ。」

「お前が俺の趣味をいつ知ったんだ。」

「そんなん教えるかボケ、ワシはちぃとずつ名字との距離縮めて来たんじゃ。今更横槍入れんなや。」

「距離縮めたってジュース買ってやってただけだろ。俺といる時間のほうが長いぞ。」

「は!それこそ、お前が立会人なんをええことに他にも頼める仕事わざわざあいつにやらせとんのやろ。女々しいやつじゃ、職権使うしかないんかのぉ。」

「お前が名字のこと自分の下にくるよう判事に打診したことはこっちの耳に入ってるぞ。」


こいつ、と言葉に詰まっていると南方が携帯を取り出し確認している。こちらを見ながら嫌そうな顔をした南方が


「…名字がさっきの食事の話本当なら焼き鳥食べに行かないか、焼き鳥は嫌いじゃないか聞いといてくれって。」


舌打ちをしつつ伝えてくる。その内容についつい不謹慎な笑みを浮かべ、


「…好きや、言うとる言うとけ。いや、やっぱええわ。自分で言いに行く。」


悔しそうな南方に背を向け彼女が居るであろう事務所へ向かいながら言う。


「…おどれが名字のこと気に入っとったとしても、ワシも譲れん。全力で口説かしてもらうわ。勝負やね。」


負ける気ないけどね。

最後にそう呟き南方へ振り返ると意地の悪い笑みを見せた。



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