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□送りオオカミ
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山奥で行われた賭朗勝負に立ち会い、すっかり夜も更けてしまった帰り道、隣で運転する弐號立会人をちらりと盗み見る。


勝負が終わってすぐに自分の部下達を先に帰らせ、細かな確認が終わって帰ろうとしたところ車が1台も残って居なかったなんて今までの経験でもあり得ないことだった。


確かに、此方へ向かうとき私は部下の一人に運転を任せていたし自分の車で来たわけではなかったが…私が帰る車を残すよう指示するのを忘れていた。だからって、と唖然とする私に弐號立会人はにこやかに"お送りしますよ"と申し出てくれた。


弐號の彼に送ってもらうなんて畏れ多いが、それ以外に帰る方法などないのでありがたく申し出を受けることにし彼の車に乗せてもらった。


同じ立会人と言っても私は新参者で、ベテランの彼と関わることも殆どなく会話らしい会話も無いまま時間だけが過ぎていき、やっと車から見えてきた見慣れた景色にほっとする。



夜中だということもあって車はスムーズに自宅近くの道を走る。


「あの、この辺りからなら歩いても近いので…ありがとうございました。助かりました、弐號立会人。」


お礼を口にし車が停まるのを見計らい降りようとすると掛けられた言葉。


「名字立会人、女性をこんな夜中に道に置き去りにするなど出来ませんので最後まで送らせて下さい。……それから私の名前は門倉です。」


確か彼は義理堅い性格だと聞いたことがある…断った所で押しきられてしまう可能性の方が高いと判断して、彼の言葉に甘んじる事にした。


「ありがとうございます。門倉立会人。」


家までの細かい道を指示しながらマンションの前までやって来たので、再度感謝の言葉を口にし車から降りようとしたところで掛けられた言葉に彼の方へと振り返る。


「…ところで名字立会人、お腹空きませんか?私、とても空腹で。このまま一人帰って食事と言うのも何ですし、せっかくなのでご一緒願いたいのですが。」


…正直、早く帰って寝てしまいたかった。だが大先輩に送ってもらった上に食事に誘われたら断れない。


「近くにこの時間まで食事出来るお店無いんですよ。」


最もらしい理由をつけて遠回しに断ろうとすると、


「そうですか。では、貴方を見送った後自宅へ帰り一人寂しく何か食べることにします。」


そう言いチラリと私を見る右目に、負けた。


「………簡単な物しかお出しできませんが、よかったらうちに寄って行かれますか?」


「クク、何だか悪いことをしましたねぇ。お言葉に甘えて、呼ばれて帰ります。」


絶対に悪いと思っていない彼に、見られないよう溜息を付きながら冷蔵庫にある食材を思い浮かべ自宅へと足を進めた。



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