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□譲れない部分
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業務終わりに一息つこうと携帯を覗くと1件の着信表示。恋人である門倉からの連絡であることを確認し、着信のあった時間を見て溜息をついた。


2時間も前じゃかけ直しても遅いか、と携帯を鞄にしまおうとしたとき再び門倉からの着信。


「遅いんじゃ、どんだけ待たせんねん。」


こちらが出た瞬間、電話の向こうで文句を言う恋人の姿を想像して思わず笑みが溢れる。ごめんねと謝ると、


「迎えに来とるけ、早よう出てこい。」


結局は甘やかせてくれることに笑みを溢し、急いで荷物を片付け本部を後にする。


寒い!雄大くんどこだろう…と辺りを窺っているとすっと隣に車が停まり運転席から出てきた彼に温かい缶を渡される。珈琲ではなくてミルクティーだったことにバレないように少しだけ微笑んで、彼がドアを開けてくれている助手席に乗り込んだ。


迎えに来てくれてありがとう、珈琲飲めないの覚えててくれたの?なんてお礼の台詞を口にするより前に、運転席に戻った彼からの不機嫌な視線に疑問を抱くが


「またその格好か。ええかげん普通のスーツにせぇよ。」


溜息混じりに吐き出された言葉に、あぁ、と自分の格好を確認する。確かにスーツ姿ではある。でもこのミニスカートと8センチヒールは譲れない。これは私の中でのいい女の条件なのだ。何より彼に、普通のスーツにしろと言われても説得力がない。


「ちゃんとシャツもジャケットもスカートも黒だし、スーツだよ。」


少しむっとした顔で答える私の脚に手袋越しの体温が撫でるように行き来したと思うと、彼の責めるような視線に貫かれ


「このスカートや、こないだも会員のあのおっさんがエロい目で見とったよ。その場で粛清しそうなったわ。」


なんて拗ねたように言う彼も可愛いのだけど、ここだけは譲れない。私だってと反撃に出る。


「雄大くんがスーツの裾短くした分だけスカート長くしてもいいよ。」


これでどうだとばかりに彼の方を覗き見るとかなり難しい顔をして、というかほぼ此方を睨み付けて言ってくる。
そんな顔、恋人にする?なんて疑問が浮かんだが口には出さないでおいた。きっと物凄い反撃を食らうに違いないのだから。


「それとこれとは話が別や。だいたいわしのスーツが長くてもエロい目で見られることも襲われることも、怪我することもないけどね。名前の場合は怪我も心配やし、見られとるし、もし誰かに襲われたらどうするつもりじゃ。」


迎えに来てくれたときの甘い雰囲気はどこになんて文句のひとつでもぶつけてやろうかと思っていたのだが、此方を睨み付けながらも彼からの台詞は甘さを含んでいるのだからついつい笑ってしまう。


なに笑っとるんじゃ!なんて隣で捲し立てる恋人をどう説得しようか考えながらも、少しだけスカートの裾が膝に近づくようにずらしたことに彼はいつ気付いてくれるだろうか。



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