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□ガールズトーク
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本部内の休憩スペースにあるベンチに腰掛け、背中から禍々しい空気を発する男のせいで誰もそこに近付けずに足早に通り過ぎる。


南方は業務終わりに缶珈琲を買おうとそこへ向かっていた。どうして誰も居ないんだという疑問もベンチを一瞥したところで一人納得すると原因である男に声を掛ける。


「…門倉、なにやってんだ?」

「南方、わし、どうしたらええんじゃろ。」


さっきまで発していた空気が何だったのだというくらい弱々しく返事を寄越した門倉の隣に腰掛け、どうしたんだと話を聞く事にした。



「さっきね、クイーンの部下達の話が聞こえたんや。…やっぱり付き合うなら優しくてロマンチックなデートしてくれて、こっちが言わんでも甘い言葉くれる相手じゃないと素敵な人が他に現れたら揺れてまう。言うてた。」



うんうん、それで?などと反応を返しながら聞いていた南方は込み上げる笑いを堪えるため全身に力を入れた。


つまりあれか。近くにいた女達の会話を盗み聞きして、自分と名前のことに当て嵌めて不安になっていたのか。



そりゃあこの門倉が、まあ優しいのではあろうがあからさまな優しさではないだろうし、ロマンチックなど想像しただけで…いや、辞めておこう。甘い言葉も先に同じ…だが、本人は隣で頭を抱えてどうすればええんじゃとぶつぶつ言っている。



洩れそうになる笑いを咳払いで誤魔化し、門倉を真面目な顔をして見て答える。


「それで、名前がそういうのを求めてるのか?」

「…わからん。けどそうじゃろ。そりゃ、なんもせん男よりしてくれる男のほうがええじゃろ。それで嘘喰いみたいに女っぽい顔の男に甘く口説かれたら満更でもないんやろ。」


何時もの門倉からは想像もできないほど弱気な姿ににやつくのをやめ、こちらもどうしたものかと考える。



「まぁ、お洒落な店くらいは行けるだろ。ディナーとか誘えばいいんじゃないか?」

「それはもうやっとる。」


やってんのかよ!充分じゃないのかと思うが当の門倉はちゃんと考えろと凄んでくる。



「…あれだ、好きだとか愛してるだとか言うのはどうなんだ。」

「…時々言うとる。」



じゃあもういいだろ!なんて口が裂けても言ってはいけない。きっと拳が飛んで来る。



再び込み上げる笑いに肩を震わせながら門倉を盗み見るが、本人は冗談などではなくいつになく真剣なので、こんな門倉を見るのもたまには悪くないなと随分ぬるくなってしまった珈琲を傾け、名前にこの姿を見せるだけで充分だと言う言葉も一緒に飲み込んだ。



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