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□浮気疑惑
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「なぁ、なんでそんな怒っとるん?」
「怒ってないですよ!」
「怒っとるやん。わしが何かしたんやったら謝るからこっち向いてくれん?」
「怒ってないですって!」
さっきからずっとこの調子の彼女に門倉は困り果てていた。今日はデートだからと彼女を迎えに来て車に乗せ数分経った頃、隣から感じる不機嫌な空気を不審に思い訪ねたのだが何を聞いても素っ気ない返事ばかりで冒頭に至ったのだ。
このままでは埒が明かないと車を路肩に寄せ名前の方を覗き込む。
「せっかく二人きりで過ごせるのに、名前が怒っとったらわしも寂しいわ…頼むから理由教えてくれんか?」
なるべく優しく問いかけると涙目になった名前が
「…門倉さん、昨日なにしてました?」
聞いてきた。
門倉が昨日は、と自分の1日を振り返る。確か昨日は賭郎勝負だと一番現場近くにいた自分が呼び出され、立ち会いを行った。それだけだった。そのことを名前に伝えると、
「それですよ。その時誰と一緒でしたか?」
更に瞳に涙を浮かべながら聞いてくる。
誰と…部下たちか、相手方の立会人の南方か。それ以外の人物が思い浮かばず
「部下と南方やね。やけどそれがどうしたんじゃ?」
困り果てたように名前に問いかける。
「開き直るつもりですか?私見てたんですから!」
挙げ句の果てには泣き出す名前に狼狽えながらも先を促す。
「ちょっと待って、何を見てたん?全然わからんのやけど。」
「…南方さんと、キス、してましたよね。」
泣きながら言う名前を見て固まる門倉。
待て待て待て!そんなわけあるか、何でわしが南方とキスするんじゃ、どういうことじゃ!と取り乱す。
していないと伝えても聞かない名前に、こうなったらと南方へと電話をかける。電話にでた南方へ
「…南方、おどれ!今わしと南方のことで名前とわしの仲に亀裂が入りかけとる。おどれが悪いんじゃ!わしとの間に何も無いこと証明せぇ!」
いきなり捲し立てるので、相手方の南方もどういうことだ!と慌てて困ったように情況を聞き出す。
門倉が名前を横目に見ながらこれまでの経緯を話終えると電話の向こうから笑い声がした。
「…南方、笑い事やない。おどれ、よっぽどわしに痛め付けられたいようやのぅ。」
「よく聞け、門倉!昨日俺がライター無くして!その時ライター貸してくれって頼んだら、お前車にライター置いてるからって煙草から火くれただろ!きっとその時のことだよ!!」
南方が必死に話しているにも関わらず、何や、それかと呟き電話を切る門倉はポケットから煙草を取り出し泣いている名前の口許に持っていく。そして自分も煙草を一本唇に挟むと、名前の口許の煙草と自分のを近づけて
「南方が火ぃくれ言うからこうやって火移してただけじゃ。わしが浮気なんかするわけないじゃろ。」
そう言い名前の目を覗き込む。すると驚いた顔の名前がほんとにと呟きながら門倉を睨み付け
「紛らわしいことしないでください!もともと二人が仲良すぎるから!あと、これからそうやって火つけてあげるの禁止です!」
照れ隠しに怒り始めた。
安心した門倉は
「南方に妬いたってことやんね?可愛ええの。名前だけじゃ。他の女も、他の男も何とも思わんよ。名前こそ他の奴のこと見るんちゃうよ。」
他の男の部分を強調しながら右目を細める。
「門倉さんより格好いい人なんていないです。」
さっきとは違う表情で涙目になる名前の目尻にキスをしながら、腹立つからやっぱり南方のことは明日殴っとくか、と笑う門倉だった。
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