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□宣戦布告
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何であいつは。数メートル先を歩いている名前を見つけた門倉は溜息を吐きながら彼女に声を掛けるべく歩幅を大きくして距離を詰めていく。
「名字立会人、その大荷物はどうなさいました?」
「あ!門倉立会人!これですか?御屋形様に頼まれちゃって…お部屋まで運んでいるところなんです。」
御屋形様に、と呟くが名前には聞こえておらず
「門倉さんはこれから立ち会いですか?頑張って下さいねー!」
と立ち去ろうとする名前を慌てて呼び止める。
「いえ、もう帰宅するところでしたので。女性がそのような荷物を運んでいるのを見過ごす訳にはいきません。お手伝い致します。」
近頃、事あるごとに御屋形様に頼まれ事をしているらしい。これは御屋形様も油断ならないなと本日2度目の溜息を飲み込み、にっこり笑いながら名前の持つ荷物の殆どを取り上げると御屋形様の部屋へと歩き出す。
ありがとうございますと言いながら後ろを追いかけてくる足音を聞いて門倉は口端を上げるがすぐにポーカーフェイスを取り繕う。
御屋形様の部屋に到着し、扉の前で荷物を受け取ろうとする名前を制してドアをノックし返事を聞くと同時に中へと足を踏み入れる。少しだけ目を見開いたように見える御屋形様へと挨拶をすると遅れて入ってきた彼女は笑顔で御屋形様へと近づいた。
「丁度廊下で門倉立会人とばったり会って、手伝ってくださったんです…はい、御屋形様こちらどうぞ!」
感情は読み取れないが、門倉へと視線を向けて
「ばったり…ね。門倉立会人…君がそんなに親切だなんて知らなかったよ。」
なんて呟き名前から受け取った荷物を物色している。
やはり、彼女への好意と門倉への敵対心がちらつく中、ライバルの出現に覚悟を決めるしかないと大きく息を吸い
「いえ、名字立会人だからですよ…所詮下心と言うものです。」
と出来る限りの笑みを浮かべた。
用は済んだのだから行きましょうと名前の背中にそっと手を添え部屋を立ち去ろうとした瞬間に後ろから聞こえる声。
「賭郎棟梁としてではなく、一人の男として勝負させてもらうよ。」
返事をせずに会釈だけし、これから彼女をどう口説くかそればかり考えるのだった。