short


□甘えたい
1ページ/1ページ






業務が終わり賭郎本部から出たところで門倉に声を掛けられた南方は久し振りに二人で飲みに出掛けようと言う門倉の提案に二つ返事で頷いた。





適当な居酒屋に入って飲んだところまではよかった。そう、よかったのだが…今の状況に南方は頭を抱えていた。旧知の仲でありお互いに多少ならず気を許している間柄ではあるが、門倉の相当な酔いっぷりに困惑している。




そういえば声をかけてきたときから些か機嫌が悪そうだったなと思い返し溜息を飲み込んだあと絡んでくる門倉を宥める。




どうせなら酒の席で愚痴でもなんでも溢せばいいものを。仕事の事だろうか…何があったにせよ弱音を吐かないこの男が今、目の前で普段の姿からは想像もつかないような様子を見せているのだ。





その事に内心面白いとは思うものの、後から門倉にとやかく絡まれるのも嫌なのでひとまず聞いてやることにする。





「何や南方、おどれ!名前をどこに隠したんや!どこじゃ!」




門倉の口から数回程度聞いたことのある女の名前。門倉の彼女であるまだ見たことのない名前の顔を想像しながら、会いたいんよーなどと叫んでいる門倉に答える。




「名前って彼女やろ?おらんよ。今日は俺と二人で飲んでたやろ。会えてないんか?」




南方が名前の名を呼び捨てにしたことを不服そうに睨み付けてきた門倉に再び失笑していると、門倉が携帯を取り出し何処かへかけ始めた。そして南方へ携帯を寄越すと




「わしが会いたがってる言うてくれ。早よぉ!」



隣で騒いでいる。




なんで俺がと思いながらも電話口で困っているであろう門倉の愛しの彼女名前に軽く自己紹介をし、状況を説明する。可愛らしい声で笑った彼女は今から二人でこちらへどうぞと自宅へ招いてくれるらしい。その事を門倉に伝える。




何で南方まで!と騒いでいる門倉を無視してタクシーに押し込み南方は名前から聞いた住所を運転手に伝える。すぐに目的地に到着し車から降りるとマンションのエントランスまで迎えに来ていたのだろう、こちらへ走り寄ってくる女が視界に入りあれが名前かと見ていると隣の門倉が




「ほれ!南方名前じゃ!可愛えぇやろー?」




言ってくるので、嗚呼。と南方が頷く。確かに、何で門倉と…と思ってしまうような可愛いタイプの女だった。どこで出会ったんやこいつなどと南方が考えていると



「何やて、おどれ人の女をそんな目で見るんか?売っとるんか?わしに売っとるんか?」




また絡んでくるので名前の方を見ると、



「こんな門倉さん初めて見ました。いつもはもっとクールな感じなんですけど。」



そう言ってふんわりと笑っている。そこへ酔っ払い門倉がまたまた



「それや!それや!門倉さんなんか他人みたいで冷たいと思わんかぁ?雄大て呼んでほしいんや!わしは!」



名前へとすり寄る。名前もまた素直に雄大さんと照れながら門倉のことを呼び、門倉は門倉で、こんなわし嫌か?普段のわしのほうがええか?といちゃいちゃした空気が漂い始める。




南方はこれ以上見ていられないと、門倉を部屋まで連れていくのを手伝い最後にあんまり彼女を困らせるなよと一言残して自宅へ帰ることにした。




後ろから、余計な世話じゃ!と叫ぶ門倉の言葉を聞きながら明日はどうからかってやろうかと一人笑うのだった。



.

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ