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□苦手なあの人
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まただ。私はあの鋭い視線が苦手だ。




今日は賭郎内で連絡事項があるというので、立会人達が一室に集められていた。皆、各々好きな場所に立っている。ふ、と視線を感じてそちらを見ると真っ直ぐにこちらを見ている隻眼の彼と目があった。




彼は目を逸らすことなく鋭い視線はそのままに唇に弧を描いた後、声には出さずに唇を動かす。




今夜は如何ですか?





ここ数日何度も私に投げられた台詞だったが彼の真意がわからずに避けているのだ。





私から見た彼は彼の纏う空気とでも言えばいいのだろうか、その男らしい見た目と言えばいいのだろうか。はっきり言ってしまえば色気のような物を感じている。





もっと言ってしまえば、煙草を吸うその仕草だとか喉で嗤う表情だとか時々寄せられる眉だとか手袋とスーツの袖の間からチラリと覗く素肌だとかに欲情してしまう自分がいる。





彼は私のそんな邪な考えを見抜いているのだろうかとトイレに逃げ込み口紅を塗り直しながら自問する。答えの出ない問いに苦笑しながらもトイレから出て歩いていると後ろに誰かの気配。しまったと思ったときには目の前には先程から頭を悩ませていた元凶の彼、後ろには空き部屋。





空き部屋に押し込まれた私は無表情を装い彼を見た。




「名字立会人、ここ最近貴方から向けられる視線にこの門倉誘われているのかと期待してしまっているのですが、その辺り如何でなのでしょう?」




手を取られ彼の唇がそこに寄せられるのを見ながら何も答えられずにいる私に彼は続ける。





「…据え膳喰わぬはと申しますでしょう?貴方が私の事を見ているのに気付いてから貴方の好きな仕草がどんなものかも把握してきたのでここ数ヶ月続けてきた甲斐がありました。」




としたり顔で近づいてくる彼の唇を見ながら、彼の首に腕をまわして、近づいてくるそこに自分のものを重ねたのだった。



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