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□はた迷惑
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今日は朝から立ち会い続きで疲れていた。最後の立ち会いの現場に向かうべく横付けされた車の後部座席に乗り込むとそこには先客が座っていた。




「会員同士の賭郎勝負と聞いていましたが、相手方の立会人は貴方でしたか名字立会人。まあ、面白くも何とも無い勝負でしょうが無事に終われば良いですね。」



珍しく口数多く例の風船を飛ばしながら話しかけられ


「そうですね。穏便に済んでほしいです。」


弥鱈立会人に同調する。






「全くです。名字立会人が怪我でもしようものなら、あのヤンキー…いえ、門倉立会人から私がお小言を頂戴しそうですしね。」



そうだった。弥鱈立会人と門倉さんはあまり相性が良くないというか、お互いにあまり好ましく思っていない感じが常日頃から漂っていた。



「 いえ!仕事の事となると別ですよ!そんなに甘い人でもないし…」




軽く否定したが横から聞こえたのは盛大なため息。



「貴方、それ本気で言ってますか?彼は貴方には隠しているのでしょうか。普段我々は彼から多大なるプレッシャーをかけられていますよ…主に名字立会人、貴方の事でね。」




え、どういう事…と口にする前に弥鱈立会人の



「着きましたね。」




の言葉でこの会話は終了した。






会員同士の勝負と言ってもどこぞのギャンブラーのように命のやり取りもなく、弥鱈立会人からしたら退屈な時間だったたろう立ち会いも撤収作業に入っていた。




だが、私が担当していた会員が敗けたことを今更になって腹立たしく思ったのかその怒りの矛先を私へ向けてきたのだ。



「お前、俺が敗けたとき笑っていたな?」



その言葉とともに私に向かい物騒な刃物を向けてくる。



「いえ、あくまでも中立の立場で御座いますのでそのような感情は持ち合わせておりません。」



出来ることなら暴力は避けたいのだけれど、相手の振りかざす刃物が私の頬を掠めようとしたので仕方なしに手刀を相手めがけて振り上げたところ




「いけませんねぇ。つまらない勝負に敗けた上に女性に刃物まで向けるなんて。」



と弥鱈さんの綺麗な蹴りが男の顔面へヒットした。



心底嫌そうな表情を浮かべながらスーツを正した弥鱈立会人がこちらを振り返り



「先程の話の続きですが、もしも貴方に何かあったらその時近くにいた者全員血祭りに上げるとかなんとか。仰っていましたかねぇ。」



え、私のいないところでそんな事言ってるのなどと恥ずかしさに狼狽える私に向かって続けられた言葉に更に驚く。



「このあと本部に帰ったらまた彼に問い詰められると思いますよ。貴方に何も無かったかとか、会員が色目を使わなかったかだとか。いい迷惑ですから彼を何とかしてくださいね。」



小さくすみませんと呟くと、



「いいんじゃないですか?愛されていて。まぁ、私に被害が及ばなければどちらでも。」



そっけなく返され再度弥鱈立会人に心中で詫びるのだった。



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