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□先輩とのやりとり
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「あの、弐號立会人。これは一体どういう状況なのでしょう。」



「おや、弐號などと他人行儀な呼び方はお辞めください。この門倉多少なりとも傷付きますので。」



目の前で意地の悪い笑みを浮かべる先輩をちらりと見やるが見られた本人は全く気にもせず続けた。



「いえ、名字立会人がまだ1人での立ち会いに不安を感じておられるとお聞きしたものですから、でしたらこの私がご一緒して差し上げようとこうして迎えに来た次第でございます。」




そうなのだ。まだまだ新参者のわたしは立会人になったものの日々の業務に中々慣れることができずに昨日一緒だった夜行立会人に愚痴を聞いてもらったのだった。




それがどうしてこの人に伝わったのか。

恐らくは夜行立会人が漏らしたに違いないのだが、情報を受け取ったにしても目の前で物凄く威圧感を放ちながら私の行く道を塞ぐ理由にはならない筈だ。




「こういうことは最初が肝心ですので。間違っても最上立会人などに頼ってはいけませんよ。それに他の立会人も、何を考えているのやらわかりませんしね。その点この門倉なら安心です。」




爽やかとは言い難い笑顔でこちらを覗き込む瞳に仕事前には似つかわしくない熱っぽさを感じて慌てて目を反らす。




「あぁ、初な反応なさるのですね。そんなところも素敵です。まあ仮に慣れた反応されたところで過去の男達を探し出して消えていただきますがね。」




等と物騒な事を呟く先輩を見ながらここ最近のことを考える。…何かと理由をつけては私に構ってくるこの先輩に対して好意を抱いているのも事実だ。

折角ならこちらも好意を素直に返そうと



「今日の立ち会いは何度かさせていただいたことのある会員様なので大丈夫かと思います。ですが、立ち会い後の書類処理がまだよくわからないので教えて頂ければ助かります、門倉立会人。」




そう答えるとぱっと表情を明るくさせた門倉は名前の手を取ると跪きそこに唇を落としてから言った。




「では、業務が終わる頃にお迎えに上がります。書類でも私の個人情報でも何でもお教えしますよ。名前さん。」




嘘偽りなく爽やかだと言い切れる笑顔で去っていく門倉を見送る名前だったが自分の業務に向かうべく気を取り直し少し赤くなった顔を見られないように反対方向へ歩いていった。













その後、

「私が名字立会人との仲を取り持ったのでは?」

凄まれ珈琲を振る舞われた門倉であった。


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