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□眠るきみに秘密の愛を
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近頃、立会人達の噂の的である苗字 名前に興味の矛先が向いたのは、いつもの気まぐれ……自分自身、1度、目にして会話のひとつふたつ交わせば、彼女への興味も次第に薄くなるだろう、そんな風に思っていた。


興味ついでに湧いてきた悪戯心で蜂名の姿で会ってみることにした。彼女が担当する部署の窓口付近で中の様子を窺う。誰もいなかったら諦める、そう思いながら人の姿を探す。


見えた人影が彼女だと思ったのも、ただの勘だった。立会人と違い定時がある彼女は、業務終了時刻を少し過ぎているにも関わらず、デスクに座り何やら手元の書類に熱心に書き込んでいた。


そっと近づき彼女の隣に立つと、驚かせないように優しく声をかける。


「……一生懸命、何をやっているの?」

「あっ!お疲れ様です。書類ですか?」

「……いや、僕は各部署の様子を窺うよう言われてるんだ。」


上を指差しながら、少し困った表情を作った僕が、さらりとついた嘘を信じたのか、にこりと笑った彼女は「大変ですね。」と言って立ち上がった。


「……何してたの?」

「仕事は終わってたんですけど、少し……纏めておきたい事があったので、ノートに書いていたんです。」

「ふぅん。真面目なんだね。」

「いえ!ただ、毎日立ち会いに行かれて報告書を持って来て下さる立会人の皆さんのことを考えると、こんなの大したことないです。」

「……ちなみに、何を書いてたの?」


やはりそれを聞くかと、言葉にしなくてもわかる顔を浮かべた彼女は、大袈裟に辺りを見回し、秘密ですよ?と呟いて僕の方を覗き見た。賭朗棟梁に向かって秘密も何も……そう思って、組織に関わる事だったら等と考えたが、目の前の名前の様子から言って、組織を揺るがす何かを抱えているとは思えない。そう判断し、わかったと頷く。


「立会人の皆さんが、よくお土産をくださるんです。それで、今度のバレンタインにお返しをしようと思って、何がいいかなぁって考えてたんです。」

「ふっ……そんなことを真面目に書いてたの?」


そんなことじゃありません!と息巻く名前を横目に、お土産なんて立会人の下心だろう、そう言いかけてやめた。


「まあ、いいけど。立会人とはいっても人間なんだから、あんまり期待させると危ないよ。」

「どういう意味ですか?」

「君はもう少し警戒心ってものを持ったほうがいいよって意味だよ。……僕はそろそろ帰るけど、一緒に行く?」

「そうですね、私も帰ります!」


そういうところね……笑顔の彼女が着いてくる気配を確認して廊下を進む。


「……車?」

「いえ、電車です。」

「僕車だから送ってあげようか。」

「えっ……でも、」

「いいよ、秘密も聞かせてもらったしね。」


返事を聞く前に駐車場へ向かって歩き出す。戸惑いながら着いてくる名前を確認して、クスリと笑みが漏れた。押しに弱くて人が良い。ふわりと笑うその表情も、どこか心地好い。


「乗って。」

「はい、ありがとうございます。」

「……家はどの辺り?」


素直に住所を口にする彼女に、本当に大丈夫かと心配する気持ちが込み上げる。ああ、こういうところが立会人達の庇護欲をくすぐるのか。そうひとりごちて、助手席の方を安全確認の振りしてチラッと見た。


小さく欠伸をしていた名前に、少しだけ笑って「30分くらいかかるから、寝てていいよ。」と声をかける。


「そんな、送ってもらうのに悪いです。」

「気にしなくていい……僕は元々運転中はあまり話さないし。」


暫く静かな時間が続き、名前から聞いた住所近くで詳しい道を聞こうと隣を見ると……寝ている。


「……他の男には送ってもらわないようにってお屋形命令で言っておこうか。」


起こす前に、柔らかそうな頬をつつく。無防備にしているのが悪いのだと、誰にともなく言い訳をして、そこにキスを落とした。





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