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□誰にでもスキだらけ
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端から見るといつもとかわりないが、イライラを募らせている門倉は喫煙所に来てから3本目の煙草に火を着けた。
そんな門倉の隣に、彼と同じように裾を長くしたスーツを身につけた男が腰をおろす。
「よっ!今終わりか?随分なペースで煙草吸ってるけど、何かあったのか?」
「……南方、ワシは今機嫌が悪いんよ。」
「八つ当たりはやめろよ?……で、何があったんだ?立ち会いでヘマでもしたのか?」
「…………。」
「無視かよ!聞いてやってるのに!」
南方が門倉の顔を覗き込むと、門倉の右目はどこか一点をじっと見据えている。その視線の先を辿った南方は、目の前の男が不機嫌な理由を悟り、はぁんと笑みを浮かべた。
「……なになに?あの事務の女、気になるのか?」
「別になっとらん。」
「ああいうのお前タイプだろ?」
「タイプやとしても好きとは言っとらん。」
「ぷっ!……痛ぇ!何も蹴ることないだろ。」
笑いを堪えながらも南方は、こんな面白い話に参加しない理由はないと、あの手この手を使って門倉から詳細を聞き出すことにした。
「…………つまり、自分に気があるのかと思っていたが、それは勘違いで他の野郎にも同じ態度だった、と……そういう事か?」
「何回言わせるんじゃ!"門倉立会人の報告書はいつも綺麗な字で読みやすいんです〜!ふふっ"言うたのに、後から来た銅寺にも"銅寺立会人は内容が細かくて捕捉説明して頂く部分がなくて助かってます〜!"やって。」
「いい子じゃないか。」
「それだけならええんよ。銅寺のやつ、嬉しそうにデレデレと笑っとおったわ!」
「そうか(……お前もだろなんて言ったらまた蹴られるな)。それで?ここで煙草吸ってた訳は?」
「まさにそれよ!これはもしかして思って見張っとったら、立会人という立会人が彼女にデレデレしとったわ。」
「見張ってたってお前……その前にもっと自分をアピールしたらどうだ?」
「ワシはアホなギャンブルはせん。やるからには勝率を上げるんじゃ。」
結局口説くつもりはあるんじゃないかと言うセリフを飲み込んだ南方は、随分短くなった煙草を灰皿に押し付け席を立った。
「じゃあまあ、約束通り、男がいるかといなかったら好きなやついるか聞いてきてやるよ。」
「おう、バレんように頼む……くれぐれも惚れるなんてことのないようにの。」
「はっ!お前とはタイプが違うんでな。余計な心配は無用だ。」
門倉の見守るなか、噂の事務の女……苗字 名前のもとへ向かった南方。彼に笑顔で手を振る彼女を確認して、4本目の煙草に火を着けた門倉と、門倉からは見えないが顔を赤く染めた南方が名前を取り合う事は少し先の話。
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